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サイボウズ社内に置かれた目を引くサッカーボールと、そこに書かれた「世界中にチームワークを!!」という文字。元サッカー日本代表監督の岡田 武史さんのメッセージです。
以前、青野社長との対談をされたということで、その内容も記事になっています。チームワークをテーマにお話される二人の記事も、合わせてぜひお読みください。
▼「おかしいことをおかしい」と組織で言うには、1人で食えるだけの自立が絶対に必要──岡田武史×青野慶久
◆4-1 違う視点やアイディアを取り入れる
丸山:第3話のなかで、今後は「働き方」というところが国や政府で取り上げられるようになって、ちょっと違う視点やアイデアをサイボウズ式にも取り入れていきたい、というお話がありました。この分野で展望のようなものはありますか?
藤村:今年やりたいと思っているテーマは、「会社と個人の関係性がどのようになっていくか?」です。
今、働き方に関してニュースでも色々な問題が取り上げられていますし、会社が個人を縛ってしまう現象が起きている気がしています。
個人として生きていくためには、会社が絶対でないはずだと思います。
ただ、会社で働いていると、会社のパワーバランスがどうしても強くなりがちで、それが個人を縛る原因となってしまう。この関係性ってどうなの?ということを、最近考えています。
例えば「副業解禁」も、その関係性に対する政府が出した一つの方向性だったりすると思うんですよ。会社にその人個人を縛って、その仕事だけをずっとやらせるのではなくて、人材を会社以外の別の場所に開放することで「そこで価値を高めてきてね」とするのが副業だと思いますし。
会社と個人の関係性が変わってきているんですね。その辺りを、今後はより取り上げていきたいなと。
ここは「働き方」よりも、より抽象度が高い話だと思います。「会社と個人の関係性がどうあるべきか」とか、「働く人は弱者なのか」とか。それをそのまま伝えると、普通のメディアと全く変わりがないので、サイボウズ式風にアレンジしていくんです。
そうすると、会社との関係性には興味のない若い人にも、「この記事目線、おもしろいな」と思ってもらえるのかなと感じています。
丸山:こうしたメディアの方針は、藤村さんご自身が編集長として決めるとおっしゃっていましたが、たとえば年始最初の会議などで、みんなでシェアするのでしょうか?
藤村:そうですね。方針は、1月の編集会議で言いました。
丸山:みんなも「それ、いいね!」みたいな感じになるのですか?
藤村:どうなるかは正直わからないのですが、少なくとも「こっちでやっていこうね」という方向性の共有はできたなと思っていますし、それで良いかなとは思います。
丸山:具体的には、どのようなことを共有されたのですか?
藤村:企画に関して、大きく三本柱でいきたいという話をしましたね。
1つ目は、「会社そのものを疑ってみませんか?」という話。その中で「会社とは何か?」とか「年功序列」とか、「長時間労働」とかいろいろな話が出てきました。
2つ目が、サイボウズ関連の社内ネタみたいな。結構おもしろい人とか、複業採用のような新しい価値がいっぱい出てくるので、それを拾って記事にしてみましょうと。
3つ目は、若手向け企画。上記2つとは関係なく、若い大学生とか、18歳~24歳ぐらいの人に向けた企画を思い切ってやってみましょうとか。その辺りの話をしました。
丸山:編集長というのは、こうした企画ネタの主導権も含めて、ブランディングに役立つようなものを考えようとすると、やはり専任じゃないと難しいですよね。
藤村:チーム構成をどうするかという事もあると思うのですが、専任の編集長はしっかり立てた方がいいですね。その人が全てのメディアを司る司令塔みたいになっていきます。
特にブランディングに関しては、「サイボウズの価値を伝えていく」というミッションも持っていますので、中の人がやるべきだと思って私が今やっています。
専任以外にお任せをすると、方針がブレたりしがちなんですね。「数字上がってないよ」とか、色々な外部の圧力がかかってくるとブレそうになるものですが、メディアは決してブレてはいけないんです。
守るべきものをしっかり通すためにも、それができる専任担当者が1人いた方がいい。責任や権限をその担当者に集約させることにも繋がるのですが。必要ですね。
◆4-2 編集長に向いている気質
丸山:こうして伺っていても、編集長というのはすごく難しい仕事だと思います。マニュアルもないですし。「こんな人が向いているんじゃないか」という気質などはありますか?
藤村:私の気質からすると、私は0から1を作るタイプではなくて、1から10の方が得意なタイプです。そういう人は割といると思うんですよ。
自分で0から1を作るというよりも、いろいろなアイデアを出しておいて、チームとのコラボレーションによって1のアイデアを10にしていくということを編集としてやっています。
自分発信のアイデアなんてたいしたことはないと思っていますし、それよりもチームのみんながアイデアを出し合っていくうちに、自分が思ってもみなかったような企画ができるというのがいいなと思っています。そういう意味では、チームに対してしっかりコミュニケーションができるということは、必要じゃないかなと思っています。
あとはコツコツ続けていけるかどうかという「継続力」がある方は、この仕事でも強いですよね。メディアって、いきなりスケールしたり読者を獲得したりということは、多分ありません。広告とかを使えば別かもしれないですが、うちは全く使わないので。
その時にやはり大事になるのは「継続」です。サイボウズ式というメディアは、読者の方とサイボウズという会社の信頼関係を結ぶ架け橋です。読者と会社を結んで、その間にブランドという橋を架けてあげる。そして信頼関係を徐々に形成する。この信頼関係は、一度のコミュニケーションで築かれることはないと思っているんです。
人と人との信頼関係も同じで、「1回会ったからあなたはビジネスパートナーです、任せます」なんて有り得なくて、何度も何度も会いながら、お互いやりとりをしながら、信頼関係を構築していくものです。それはメディアにもそのまま言えると思っています。
何度も何度も記事を出しながら、何度も読んでもらっていくうちに、少しずつブランドの架け橋がかかっていくと感じます。ですので、その行動を長く続ける覚悟と気概があるかどうかが大事だと思います。
丸山:この架け橋って、時代の流れを何となく感じていないと作れないと思うんです。そういう意識を、普段から心がけてお仕事されているのか、それとも、趣味で映画などを見ていたりするうちに思いつかれるのか、どちらでしょうか?
藤村:私自身は、企画案の要素のすべてを一人で作ったわけではありません。チームの中で色々なアイデアを出し合っているうちに、企画の方向性が見えてくるので、それを参考にしながらマインドマップを用意して整理しながら、メディアのテーマや方針を定めて作っているんです。
丸山:みなさんの意見から共通項を抜き出して、まとめていく感じでしょうか?
藤村: その通りです。マインドマップも基本的に、アイデアにあるものを並べているだけ。ただし、マインドマップの幹にあたる部分はただ羅列するわけではなく、しっかり考えて編集しています。
まさにここから方針に変えて、言語化していくというのが私の仕事でもあるので。
◆4-3ブランドジャーナリズムと社会の「今」を反映したコンテンツを提供する
丸山:皆が自然に向かっている方向性があるということですよね。ただ、それだけですと、トレンドを先取りできないような気がするのですが、今のお話を聞いているとしっかりと考えられていますよね。
ちょっと1歩というか0.5歩先くらいなのかもしれないですが、ちょうどいいバランス感できているような気がしますね。
藤村:そうですね。サイボウズ式に限らずですが、私が所属しているコーポレートブランディング部自体はこういうコミュニケーションをいろいろなところでやっています。そのなかで「次のブランドのテーマはこれだね」といったものが出てきたりすると、そのアイデアをもとに考えはじめていく、というのが正直なところです。
丸山:社内のコミュニケーションや記事に見受けられる「お茶の間感」が、社内で皆さんがやりとりしているチャットのなかにもしっかり表れていますね。
藤村:まさにそうです。皆で日々おしゃべりしながら「こっちの方向かな?」みたいにやっていっていますね。あとはサイボウズ自体のブランドジャーナリズムみたいな話もあります。
「生きがい」「働きがい」のある会社にサイボウズのブランディング自体をシフトしていきますという話をしています。
私はこれを参考にしながら、サイボウズ式ではこういうことをやっていこうと。それをマインドマップにまとめています。
丸山:ユーザーと合っているから凄いですよね。結局会社の方針も、社会とユーザーを見ながらそれに適したものが出てくるので、流れとしては合うんですね。
藤村:プロモーションも全く同じなんですが、「僕達の伝えたいこと」と「相手に伝わること」の間は、ものすごく深い溝があります。僕達の伝えたいことなんて、直接伝えても何も伝わらないんです。
ただ、受け手側が今関心を持っていることや、それこそ社会の変化もそうですが、「今、私はこういう情報が欲しい」となっている状態の時に、編集でその情報を充てると、人は動くんです。
特に「この検索キーワードを狙おう」といったSEOで人を呼ぶのは、あまり想定していません。あくまでも、出した企画の切り口が、そのタイミングで読者の方に受けて話題になれば良い、と考えていますね。
▼働き方を考える – サイボウズ ワークスタイルムービー「大丈夫」
これは、「サイボウズと働くママ」という、一見すると何の繋がりもないネタから生まれたムービーコンテンツなのですが。
公開した2015年当初は、働くお母さんの問題というのが社会問題でもあり、むしろママ側ではなく、社会から見た側で「今」関心のある働き方はどういうものか、というのを取り上げてムービーにしました。
この動画では、サイボウズのことは全然言及しておらず、働くお母さんのあるがままの姿を、そのまま映像に置き換えました。その結果、色々な反響が起きて、賛否両論が生まれました。「働くお母さんの残酷な部分を載せないでください」という声もあれば、共感も結構ありましたね。
こうした社会的に価値があるとされる部分をサイボウズなりに発信することで、視聴者や読者の方を巻き込み、賛否両論色々な議論が起きて、結果的に社会が良い方向に前進していく。そういうきっかけになればいいなと思っています。
『サイボウズ式』編集長 藤村さんの社内を巻き込むコミュニケーション仕事術 第5話:サイボウズというブランドのつくり方 – 予算とSNS活用 につづく