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◆3-1 ビジョンを常に持つ – 骨子をぶらさないための編集基準
編集長という役割は、メディアの性質を決めるようなところがあると思います。そのなかで企業として運営されるうえで一つ難しい点として、どのタイミングで成長に合わせたチェンジをされていくかが挙げられます。藤村さんは、その辺りをどうお考えになりますか?
藤村:メディアのビジョンは編集長が決めるべきだと思うので、しっかり持っておいた方がいいかなと思います。
『サイボウズ式』を例にすると、基本的に軸は変わっていないですね。タグラインに入れている「新しい価値を見出すチームのための、コラボレーションとITの情報サイト」、この文言が2012年に立ち上げた当初のもので、そのまま変えてはいません。
ただし、扱う内容は変わってきています。具体的には、立ち上げて1・2年目の頃は「チーム」「コラボレーション」「IT」というものが多かったのですが、それだけでは記事の数字は飛躍的に伸びませんでした。サイボウズとしては、その3つをキーワードに言いたかったのですが、要するに読者の方がそこにあまり関心がなかったということがわかりました。
丸山:会社として発信されたいことと、読者の読みたいものに「ギャップ」があったということですね。
藤村:その通りです。そこで、僕達も考え直しました。今から3年ぐらい前には、チームの中での「働き方」が、これからブームになりそうな予感がしていたので、「チームと働き方」に視点を寄せて、記事を出していったんですよ。
すると、やはり読まれるようになっていきました。特に2015年あたりから「働き方」に関する記事をどんどん出しています。今、日本では当たり前のように「働き方改革」が行われていますし、安倍総理もいろいろなやり方をしながら、日本全体で働き方を変えていこうとしています。ある意味、「働き方を変える」ことが世間では当たり前になってきたということですよね。
ということは、メディアのテーマとしての新規性は薄まっていくことになります。新しいメディアの骨子を作ろうとしているのが今、という感じですね。
まとめますと、編集長がビジョンを決めますが、編集長の独りよがりの「こういうことがやりたい」ではなく、今、世間の方や読者の方が関心を持っている内容を加味しながら、背骨はぶらさないけれども、テーマなどはその時々によって変えていくようにしています。
丸山:背骨をぶらさないという部分のチェックは、どのような形式でやられていますか?
藤村:できあがった原稿も全てきっちりチェックしますし、企画書の段階で「コンテクスト」と呼ばれる「なぜ『サイボウズ式』でやるべきか?」という部分を大事にして、そこがブレないようにしています。
丸山:なるほど、最初のコンテクストで結構決まっているのですね。
藤村:そうですね。
◆3-2 メディアの記事から醸し出される「雰囲気・世界観・温度感」を、編集によって整える
丸山:『サイボウズ式』=「働き方」のサイトであるというのを、別に誰かから言われたり書かれたりするわけでもなく、記事から醸し出されているのは、凄いことだと思います。
藤村:それは、何よりも一番編集長としてやりたいことなんです。「サイボウズといえば◯◯」だよね、と言われたい(笑)。
この◯◯を、僕たちがそのまま「働き方です」と言ってしまうと、読者にとっては押しつけがましくてウザいじゃないですか。あくまでも、記事を読んでいただいた方が、その内容からサイボウズという会社を解釈する。これがブランドを作ることだと思うんですね。
もちろん、何もせず無策のままメディアを作ってしまうと、解釈がバラバラになってしまいます。そこの「背骨を通す」という意味でのコンテクスト付けを、各企画でやっています。
丸山:外部のライターの記事に関しても、それぞれの性格や書き方の癖を持たれていますよね。そうした個性ありきのイメージが、『サイボウズ式』になると、ちゃんと『サイボウズ式』なんですよね。このオリジナル感が出るのは、やはりコンテクストの影響とみて間違いないでしょうか?
藤村:そうですね、「コンテクスト」と「編集」です。
『サイボウズ式』で記事を作る際に、単純に情報を集めて出すだけだと、普通のインタビューと何ら変わりがありません。ですから、サイボウズが持つ雰囲気やメディアとしての意図をしっかりと伝えたい。その為には編集が欠かせないと思っています。
例えば、株式会社コルクの佐渡島庸平さんにインタビューさせていただいたときの記事なのですが、ご本人に「会社と個人の関係性」という話を聞き始めたら、いきなり佐渡島さん側から質問が来たんですよ。
社員に求めるのは「会社に◯時間いるか」よりも「Twitterのフォロワー数」
──コルク佐渡島庸平さんに聞く、会社に依存せずに生きる自立心の作り方
こういう余談的な話は、通常のインタビューでは記事にしないはずなんです。得たい情報とは違う箇所はカットするものですが、うちでは編集として意図的に入れています。
取材当時の雰囲気とか、世界観というか、情報以外で伝わってくる温度感のようなものを入れたいなと思っていて、そういうものを実は編集によって加えています。ですから、ライターさんに書いていただく場合でも、こちらの編集部で最終的にいろいろと編集をしています。これが結果として、「ライトで読みやすいな」と感じてもらえる記事が出来ることに繋がっているのかなと思います。
丸山:社内には、そういった編集ノウハウというものが蓄積されているのでしょうか?
藤村: そうですね。私の方でいろいろデータベース化をしています。
サイボウズ式用ウィキペディアのような「Shikipedia(シキペディア)」
これは『Shikipedia(シキペディア)』という、「サイボウズ式用ウィキペディア」のようなものなんですが、私の方で全て土台を整え、情報を記載しています。まず最初に私が全て書いて、それを皆で勝手に更新してもらっている、という形です。
このようにデータベースを積み上げて、スキルや編集の平準化をしようとしています。業務フローも書いていますし、なんとか僕がいなくても回るような仕組みにしていますね。
『サイボウズ式』編集長 藤村さんの社内を巻き込むコミュニケーション仕事術 第4話:編集でブランドを導くための「コツ」と「アイデア」 につづく