【プレミアム】知的財産ノウハウが中小企業の経営を左右するかもしれない(後編) FavoriteLoadingあとで読む

: 事務局
WebサービスやWebアプリなどのビジネスを手がけている方へ。知的財産の知識がないと、知らないうちに商標侵害や特許侵害などで痛手を受けることもありえます。後編ではいつ特許出願や商標登録をしたらいいのか、既存の特許や商標の調査方法、弁理士費用などについて弁理士さんに教えてもらいました。

前編では、中小企業における知的財産ノウハウの重要性ついてまとめました。

後編では、いつ特許出願や商標登録をしたらいいのか、既存の特許や商標の調査方法、弁理士費用などについて、前編に続けて知的財産のプロフェッショナルである弁理士の山口修之さんに教えていただきました。その内容をウェブ担当者通信事務局スタッフがまとめています。

山口さん

弁理士 山口修之氏
ファシオ国際特許事務所 代表
大阪大学工学部を卒業後、技術系研究開発企業経営を経て1999年に弁理士登録、国内特許事務所に勤務。
特許・意匠・商標に精通しており、権利化、侵害・被侵害事件対応等多くの経験を持つ。
大学TLO(技術移転機関)コーディネータ、知的クラスター創生事業アドバイザー、大阪大学大学院や奈良先端科学技術大学院大学での非常勤講師などの職務を歴任し、各大学や総務省ITベンチャー知財セミナーなどで講義を行う。
最近では弁理士業務として、アプリ/システム開発、工場設備、医療機器関連など企業・大学官公庁での商標権・特許権を手がける傍ら、「地域新産業戦略推進事業」や「おおさか地域創造ファンド広域支援事業」など数多くの事業においてコーディネーター・アドバイザリーを務めている。

どんなときに特許出願や商標登録をしておいたほうがいいのか?

お金を生みそうだと判断したら特許出願を

特許に関しては「技術的要素に優位性があって儲かりそうなとき」だそうです。

3つのポイントから考えてみましょう。

  • 特許には維持費用がかかる
  • 取得しやすくするために権利範囲を狭くしたら少し変えて真似される
  • 他社が使いそうな技術であり市場ニーズがある

1.特許には維持費用がかかる

  • 出願時       印紙代14,000円
  • 審査請求料    118,000円+請求項の数×4,000円
  • 登録料
    1-3年 2,100円+請求項の数×200円
    4-6年 6,400円+請求項の数×500円
    7-9年 19,300 円+請求項の数×1,500円
    10年- 55,400 円+請求項の数×4,300 円

特許は出願をするときにも維持をする期間も費用がかかります。

ポイントの2番目にあるように、特許を取得しやすくするためにひとつのシステムで権利範囲を狭く分けた場合には、複数の特許となってしまうため、維持費用だけで莫大な金額になってしまいます。

実は特許の数が多いだけで無駄な取得・維持をしている企業も多くあります。
そんな無駄な特許を整理するのも弁理士の仕事のひとつです。

2.取得しやすくするために権利範囲を狭くしたら少し変えて真似される

特許は権利範囲が狭いよりも広い方が価値があります。

特許取得は「発明を独占でき模倣品や類似品を排除できる」というメリットがありますが、その技術がどのシステムやアプリで使用されるようなデファクトスタンダードになれば本当に強い特許となります。

しかもその権利範囲を広く取ることができていれば、競合企業がアイデアを少し変えてきたとしても必ず特許侵害になってしまうのです。

そうなればライセンス契約や業務提携、他社との新しいビジネスモデルの創出につながる可能性が出てきます。

どのような内容で特許をとるのがその市場と現状ではベストなのか、それをクライアントとともに考えるのが弁理士の仕事になります。

3.他社が使いそうな技術であり市場ニーズがある

ポイントの2番目と関連してきますが、特許を取ろうとしているその技術に市場ニーズがなければ、その特許は費用の無駄になってしまいます。

特許は取得することが目的ではなく、技術を独占し新たなビジネスにつなげるために行うものです。

他社が使いそうにない技術は、どんなに新しくすごい技術であっても特許を取得する意味がありません。
ビジネス的にはその技術を保護する必要がないからです。
そして他社がその技術を模倣せず市場ニーズもないのであれば、その技術はお金を生み出すこともないでしょう。

自社の製品やサービス、アプリなど新しいアイデアに、「優位性」「新規性」「技術的要素」「市場ニーズ」があればお金を生み出す可能性があります。そのときには特許出願を考えましょう。

商標はいますぐ調査・登録を

自社のサービスやブランド名、ドメイン名など商標登録をしていない場合には今すぐに既登録がないかを調査しましょう。

もしも名称・マーク・商標を使用する商品やサービスが自社と同じ内容ですでに登録をされていた場合、対策を考える必要があります。

基本的に悪意・善意を問わず、知的財産の侵害を権利者に発見されると訴追される可能性があります。
知的財産権を侵害すると、過去の販売に遡って損害賠償請求されたり、在庫の廃棄まで求められたりすることもあります。

また訴追前であっても、権利者から警告がきた後は解決するまで資金調達が難しくなる場合もあります。

既登録がなければ登録をしておきましょう。特許と違い商標登録はそれほど難しくないので自分たちでやってみてもいいと思います。

商標登録に必要な費用は以下の通りです。

  • 出願時       印紙代3,400円+区分数×8,600円
  • 登録料        全額納付 区分数×28,200円

新規事業で新しいサービス名・ブランド名を付けるときや、新しいサイト名・ドメイン名を決めるときにも、商標登録がされていないか調査および登録をしておきましょう。

あとから気づいてしまったら、せっかく名付けて拡散してきたブランド名やドメイン名などを変更しないといけなくなる可能性があります。
中小企業の経営にとってこれは痛手になるかもしれません。

すでに登録されている特許や商標を調べる方法

特許・実用新案・意匠・商標はすべて特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で登録されている情報を検索・調査することができます。
商標の名前など文字は検索でまだ探しやすいのですが、画像は弁理士でも調査に時間がかかるそうです。

(参考)特許情報プラットフォーム|J-PlatPat

J-PlatPatサイトのグローバルメニュー「特許・実用新案」「商標」から検索画面を呼び出すことができます。

(例)商標で商品名やサービス名を調べたい場合

  1. 「商標」→「6.商品・役務名検索」で商品の「類似群コード」を確認。
    たとえば「サイト」で検索をすると441件出てきました。商品名には「Webサイトを作成するためのコンピュータソフトウェア」や「インターネットにおけるウェブサイトによる広告」「インターネットウェブサイトにおけるショッピングモール形式で提供する商品の販売に関する情報の提供」など一覧で表示されます。
  2. 次に「商標」→「3.呼称検索」でサービス名をカタカナで入力、1.で確認した「類似群コード」も入力します。

検索結果一覧から気になる商標の番号をクリックすると商標の詳細情報が表示されます。
サービス名+類似群コードで検索をすることで、名称と商標を使用する商品やサービスが自社と同じかどうかが確認できます。

弁理士に依頼したら費用はどのくらいかかる?

著作権に関して侵害など何か問題が生じた場合には弁護士に相談するイメージが強いです。
一方で、技術を伴う産業財産権である特許や商標などは弁理士に相談をします。

必ず弁理士が登録をしないといけないものではなく、自分たちでも商標登録や特許出願を行うことは可能です。商標登録に関しては既登録があるかどうかの調査に時間はかかるかもしれませんが、それほど難しいものではないので自分でまずやってみてもよいでしょう。

もし特許侵害や商標侵害などで訴追されてしまった場合、ドラマ「下町ロケット」では弁護士が活躍していましたが、弁理士に相談したほうが技術や外国知的財産に詳しく、また必要な場合に知的財産に強い弁護士を推薦してくれることから話がスムーズかもしれません。

弁理士に依頼するときにかかる一般的な費用

弁理士に特許出願や商標登録を依頼した場合の一般的な費用はどのくらい必要かを山口さんに聞いてみました。

  • 特許出願:約30万円
  • 商標登録(1件・1区分):約8万円

審査において追加で調査・作業が発生した場合に追加で費用が発生することがあります。
また特許取得・商標登録が成功したときに別途成功報酬が必要です。

なぜ弁理士に依頼する必要があるのか?

新しいアプリで「他ではやっていない新しい画面操作でありプログラム技術だ」、と自分たちでは思っていても、実はすべてまとめて特許を取ることは難しいかもしれません。

またそのシステムの一部となるような特許を他人が取得しているかもしれません。

特許を取得するためには、「既存の調査」「他との技術優位性を見出す」「審査に通りビジネスに活用できる特許範囲の考え方」「審査に通るための書類のまとめ方」などプロならではノウハウが必要になってきます。

大手企業では「知財部」という部署を設置して、新規事業など特許を取得したほうがいい発明の発掘・特許出願や維持などの事務作業、知財ライセンス契約、すでに特許取得されているものの調査・分析など、知財戦略を行っています。

ヒトが少ない中小企業では知財専門の部署を作りづらいのが実状です。
新しいサービスやアプリなどお金を生みそうなときにはまずは弁理士に相談をしてみてもいいかもしれません。

弁理士はどうやって探したらいい?

ウェブ関連企業と言っても、「SEOに強い」「リスティング広告専門」「デザインがいい」など得意分野はさまざまです。
それと同じで弁理士にも得意分野があります。

弁理士事務所のサイトを見るとほぼ必ず「得意分野」「専門分野」が書かれています。

たとえば山口さんのサイト(ファシオ国際特許事務所(http://www.facio-pat.com/))では、「機械デバイス・情報・通信・バイオの技術分野を得意としております。また、医療分野については研究開発・補助金審査現場に深く関わっております」と書かれています。

また、日本弁理士会のサイトでも「地域」「中小・ベンチャー企業」「大学・TLO」「専門分野」「取り扱い業務」から弁理士を探すこともできます。

(参考)弁理士ナビ

信頼できる弁理士を探す一番の方法は「知っている人に紹介してもらうこと」です。また、個人的な相性というのも実は大きいようです。
これはどの業界でも同じかもしれませんね。

弁理士以外で知財について相談できるところはある?

INPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)では47都道府県で知財総合支援窓口を設置しています。
INPITでは「知財戦略エキスパート」をはじめとするスタッフが無料で相談にのってくれます。

2017年にはINPIT-KANSAI(INPIT近畿統括本部)が開設され、関西の企業の国内外でのビジネス・知財総合戦略の支援や高度検索用端末の利用などができるようになっています。
無料で相談や定期的にセミナー・講座を開催していますので利用してみてはいかがでしょう?

(参考)[INPIT]近畿統括本部の支援サービス | 独立行政法人 工業所有権情報・研修館

まとめ

ウェブの仕事をしていると知的財産権のうち著作権はよく耳にしますが、今回は産業財産権と言われる「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」について、弁理士の山口さんにお話を伺いました。

特許はハード系、商標は大手企業じゃないと関係ない、と思っていたら、知的財産権は中小企業にこそ経営に影響を及ぼしそうな話が多くとても勉強になりました。

個人的に「ビジネスモデル特許はよく聞くからきっと新しいビジネスモデルのアイデアで特許が取れるようになったんだ」と勘違いをしていました。
特許は「技術」を守るためのものであり、ビジネスモデルの「技術」に対して与えられるものです。

せっかく技術があっても、それを守るための知的財産ノウハウがないと他社に横取りされてしまうことにもなりかねません。

ヒト・カネ・モノが少ない中小企業にとって、他社と差別化を図りブランディングを高めることはなかなか難しいです。もしサービスやアプリなどが「技術的要素に優位性があって儲かりそう」と考えているのであれば、特許出願を検討してみてもいいかもしれません。

また先日話題になった「ティラミスヒーロー騒動」のように、商標侵害はブランディングやサービス継続に直接影響を与えます。

商標登録をしていないサービスやブランド、ドメイン名があれば、今すぐに既登録の調査と登録手続きをしたほうがいいかもしれないですね。

事務局
この記事を書いた人: 事務局

「ムダな情報で頭脳を消耗することなく考える時間を確保する」
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