ウェブ担当者通信の代表である丸山が「これは!」と思った優良セミナーを受けてきて、感想をお伝えするものです。内容については丸山の解釈が入りますので、間違っている部分があるかも知れません。もし内容を気に入り、より詳しいお話がお聞きになりたい場合などは、ぜひ著者・主催者のセミナーに参加されることをオススメいたします。
講演者プロフィール
安宅 和人:ヤフー(株) CSO(チーフストラテジーオフィサー)
産業革命ののち、情報革命がきた。
そして現在はディープラーニングの登場により、様々な産業において技術の確変モードのようになっている。
リーバイスとGoogleがコラボしたタッチセンサー付きのジーンズなど、ファッションにも技術革新が登場しているし、農業の生産方式も変わってきた。
とうとう人間も分子レベルでデザインできるような流れになってきている。
技術が社会を大きく変革する時代が到来している。
その根本を支える技術がAIとデータである。
経営は今まで「人・モノ・金」と言われてきた。
しかし今や金は必須事項ではない。「人、データ、機械」と表現した方が正しい。
もはや規模は富みに繋がらない。夢を描いて未来を形にする力が富みを生む。
未来は何から生み出されるのか?
未来=課題(夢)x技術(Tech)xデザイン(Art)。
これを仕掛けられる人に巨大なチャンスがやってくる。
どのような世界を生み出し、残したいのか?そのような考え方をしたい。
残念ながら技術の評価において、世界の中の日本の大学の地位は低い。
データ量も少ない。
Deep Learningの権威は一人もいない。
現在は米中の二強。既に技術革新という意味では勝負は決してしまったといえる。
これは明治維新前の、黒船が来航した状況に似ている。
日本では理系出身者が活躍できず、邪魔なおじさんばかり。
そうやって日本がのんびりしている間に、世界は技術を進化させ、熾烈な競争に勝ち残ってきているのだ。
しかし、ご存知のように明治維新以降の日本は凄かった。
列強が生み出した既存の技術を用い、組み合わせることでどんどん新しい社会を作り出していった。
これは現在の状況と酷似している。
既にある技術を使って、新しいサービスを生み出すというフェーズは、日本の得意分野になる。
ディープラーニングという技術が生み出された後の現在は、サービスやエコシステムが勝負となる時代に突入している。
うまくAIを活用し、組み合わせて優れたサービスを生み出していく力が試される。
このようなサービスが、全てAPIを通じて書き出されるようになっていくだろう。
そして、常にサービスをアップデートする姿勢が求められる。
たとえば、SONYのAIBOは本体+月々2980円というサブスクリプションモデルをとっている。
多くのAI産業は、売りきりではなくサービス側、エコシスエム側に進化するのだ。
サービスは妄想力の勝負。
この国は妄想の量では負けていない。
攻殻機動隊とドラえもん。オタク文化が日本から発祥したことも含め、昔から妄想力には定評がある。
シンゴジラの台詞である「この国はスクラップビルドで立ち上がってきた」を実行する時がきた。
これからの人材競争力は、AIを使いこなす人と使いこなさない人とで二分されていく。
必要とされる能力は、母国語x世界語x問題解決能力xデーターリテラシーとなるだろう。
今我々は世界の重心がアジアに戻るダイナミックな局面にいる。5年以内に中国が世界一の国になるだろう。
まもなく世界語に中国語が加わる。
日本は弱小国に向かっている。ぜひ人材競争力を身につけて、未来を作り上げていって欲しい。
講演者プロフィール
川上 量生:(株)ドワンゴ 取締役CTO
現在のAIは、少しバズワードで語られすぎている。
イメージ論か技術論ばかりが先行しており、我々の社会がどうなるかはわからない。
革命だっていう言葉は本当か?
実際、AIの応用例として産業界ではあまり良い事例がない。
どちらかというと、学術界や研究開発が過熱しているのは確か。
しかも大学ではなくGoogleなどの企業が圧倒的な量の論文を発表しており、そこから見えてくる世界は、確かに未来を予言するものかも知れない。
インターネットで誰でも閲覧できるようになっているので、今日はそこから未来予測を展開したい。
ひらめきや、直感、芸術、美、センスの理解などは、実は機械もできるようになってきた。
たとえば人間がキャラクターを創る時は、自分の脳の中にあるものを模倣して創る。
同様のことが機械にもできるようになってきている。自分のデータの中にあるものを模倣して、オリジナルの作品を作れるようになった。
様々なフォントの自動生成(中国)や、手書きの筆跡を真似てオリジナルの文章作成も可能になってきている。
誰が書いたのかわからなければ、人間が錯覚してしまうレベルまで来ている。
できる。むしろ得意。大量生成もできる。
ただし、Alpha Go MasterでGoogleがやっている21日の量の計算をドワンゴの機械でやると24年かかる。
計算資源が知性のレベルを決める時代になってきた。
AIに判断をさせると、倫理的にまずい差別的判断を出してしまうことがある。
たとえば、男女差に基づく職業への傾向などである。
これは事実ではあるが、人間の感情的には受け入れられない。
そこで結果的に差別をしないように、データを加工する実験なども始まっている。
これは研究者からすると意味のない実験だが、社会的には必要な作業である。
医者や弁護士の仕事はもはやAIで精度が変わる。
価値が高いと思われていた仕事がAIにより代替可能になってきている。
AIを進めるということは、人間がどのようにモノを認識し、創作を行っているのかなどの種明かしをすることに通じる。
それは人間自体がモデル化され、解析可能になること。つまりAIを理解することで、人間がわかる。
人間がモデル化される。
つい最近、ニコニコ動画に投稿されるイラストの閲覧数を、事前予測するという試みを行った。
単純に投稿されるイラストだけを分析した。有名な絵師やフォロワー数という情報は入れていない。
その結果、かなりの精度で閲覧数予測が当たってしまった。
これは、人間が好むイラストの傾向に普遍性があるということの証明である。
当然、時代によって好みは変わるが、リアルタイムなビッグデータがあれば、ある程度マーケティング予測は当たってしまう。(情報の鮮度が大切)
そうなると、商品が出る前にマーケティングができてしまうということで、人間のコントロールに近い試みになっていく。
このようなAI時代が訪れると、AIとどのように付き合うか?という問題が出てくる。
この点で、遺伝子工学まで手を出し天才を生み出しかねない中国は、一歩抜きん出る可能性は高い。
ジョージ・オーウェルの「1984」という小説をご存知だろうか。
もし中国が覇権を握ったとすれば、あのような極端な監視社会の実現は、あり得ない未来ではない。
これから人類が直面するのは以下の課題となるだろう。
何かと大変な時代に我々は生まれてきたようだが、この時代を面白いと思って見守ろう。
講演者プロフィール
中村 泰信 :東京大学 先端科学技術研究センター教授
量子コンピューターとは、量子ビットがもつ4つの状態を活用して並列計算を行わせるコンピューターである。行列系の演算が得意で、例えば素因数分解は量子コンピューターをすると比較的簡単に解けると数学的に証明されている。
たとえば、現在主流の暗号をすべて解いてしまう可能性がある。つまりセキュリティ的に大問題である。
具体的には、現在主流の暗号化アルゴリズムであるRSAを簡単に解いてしまう可能性がある。
RSAの暗号化の担保は素因数分解の難しさなのだが、量子コンピューターは素因数分解が得意なので、そうなると簡単に元データを復元できてしまう可能性が出てくる。
量子コンピューターの実用化の難しさは、量子自体が観測により状態をかえてしまうため、高精度で状態をキープ(コヒーレンス状態という)しながら計算をさせるのが非常に難しいことである。現状でようやく100msecの状態キープが可能になったレベルである。
現在は、ショアなどにより誤り訂正のアルゴリズムも発表され、数学的にはある程度精度の高い計算ができる見込みがでている。
しかし工学的に理論通りの回路を作るとなると、そのハードルは高い。
この問題に対処するため、超電導を用いたり、そもそもコヒーレンス問題を回避するようなアルゴリズムに変更したり、集積回路を作ってみたり、さまざまな工夫が世界各地で行われている。
まだ産業的な応用には至っていない。しかし研究は白熱している。
Googleの研究チームが、2015年に9ビットの集積回路を発表したり、IBMが5ビットの量子サービスを、初めて誰でも使えるようにしたりしている。またインテルも大学と共同で開発している。
また量子コンピューターを作るスタートアップのリゲッティ(Rigetti)コンピューティングは19ビットの集積回路に成功。現在100名くらいの会社になっている。
機械学習を研究で使うことにより、より効率の良い回路設計などに役立てる試みが行われている。そして一定の成果を出してきている。
量子コンピューターはいつか実現し、使用されるようになると思う。
しかし、すべての既存コンピューターを置き換えるものではなく、現在のスーパーコンピューターのように、ある特定の目的で使用され、組み合わせて人類の課題を解く目的で使われていくことになると思う。
今回お伝えした講演の内容は、どの講演も「今のテクノロジーの延長で社会がどのように変わるのか」という観点で語られており、よくあるAI活用セミナーとは毛色の違う内容になっていたと思います。
私の直感としても、この30年程度で大きく社会は変わるだろうと思っていまして、その感覚は今回お伝えしたような講演の内容に近いものです。
そこで最終回の次回は、今回のAIセミナーをうけ、私が現在思っていること、そしてウェブ担当者の未来について考察してみます。