今回は森野コラムの影響を受けて中国の歴史に興味を持ち始めた歴史初心者のウェブ通事務局こだまが、「軍師」にフォカースをあてた歴史について森野誠之さん(運営堂)から教えてもらいました。
森野さんの記憶ベースで話してもらっていますので細かい部分で違っていることがある場合があります。歴史に学ぶという観点で話していますので、ご容赦くださいませ。
こだま
前の回「ビジネスの軍師になるために孫子から学ぶ」で、「ビジネスの軍師として戦略を考えたり、上司や部下との関わり方について悩んだり、というときにオススメなのは孫子」というお話がありましたが、孫子には他にどんなことが書かれているんですか?
ビジネス軍師になるための考え方とか学べるものがあったら知りたいです。
森野
孫子では「無駄な戦争をするな」「戦争をするなら短期決戦でやれ」って言っているんです。
基本的なこの考え方が私は好きですね。
無駄な営業はしたくないわけですよ。ほっといても仕事がくるのが一番なわけですよ。以前丸山さんとの対談「ウェブ担当者のキャリアパスを考える」(4)でも話していますけど。
じゃあ無駄なことをしないために何をするのか?
たとえば情報を集めて分析をする、とか具体的なことが孫子には書かれています。
彼を知り己れを知れば、百戦して殆うからず。(知彼知己者、百戦不殆)
ちゃんと分析してやれば勝てますよ、ってことです。負けない、といってもいいでしょうか。
孫子は情報の重要性を力説しています。戦術においての初動はまず情報の分析から始まるんです。
これ、今のビジネスにもまさに当てはまりますよね。
分析も何もせずに、「なんとなくこうやればいいんじゃない?」で動いて失敗することが多いんですよね。
もう最初から負けとるがな、ってことですよ。
ちょっと前にリーンスタートアップって流行りましたよね?
あれも似たような考え方なんですよ。「ちょろっとやってみて情報を集めて分析してうまく行きそうだったら突っ込め」って。
軍隊でいえば威力偵察のようなものでしょうか。
こだま
言葉を変えて同じようなことを言っているだけなんですねー。時代に合わせた内容になっているかどうかの違いだけで。
森野
そうそう。
情報が大事、分析が大事って考え方は同じで、時代に合わせてより具体的に行うことが違っているだけなんです。
だから歴史に学べ、ってことなんですよね。
こだま
なるほど。ところで情報収集や分析は、プロジェクトでは誰がやるべきなんでしょう?プロジェクトリーダーが中心となって?
森野
いや、独立した部署とか専門家とか第三者がやったほうがいいと思います。プロジェクト内部の人間がやるとどうしても視野がかたよってしまうんですよね。
昔の歴史でも同じようなことがあって、敵方の情報収集のための偵察に行くときに、同じ状況を見ても「全然大丈夫」っていう人と「ヤバイです」っていう人がいるんですよね。主観が入っちゃうんですよね。
孫子の「第十三篇 用間(ようかん)」ではスパイ(間者)のことについて書いています。
故に明主賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出ずる所以の者は、先知なり。先知なる者は鬼神に取るべからず。事に象るべからず。度に験すべからず。必ず人に取りて敵の情を知る者なり。
賢将と言われる人は、敵の情報はとても重要と分かっていて情報をとっている人。
敵の情報をとるために信頼できる人を間者にしなければならず、利用する側にも度量と情報を分析する知力が必要、と書いているんです。
こだま
ビジネスにおいて情報収集や分析を第三者に任せたとしても、プロジェクトのリーダーはその情報が正しいのか分析したものをどう活かせばいいのか?が考えられる力が必要ってことなんですね。
森野
そうですね。
劉備の軍師・諸葛亮孔明が書いたとされる「人物鑑定法」7か条があるんです。
人からの意見や物事の結果を客観的に見ることができ、それを受け入れることができる器なのか?
否定的なことも受け入れられる、それを認められる人はやっぱりすごい人なのかもしれないですよね。
こだま
そうですよね。劉邦もそういう人でしたよね?
森野
自分ひとりでは無理だったり考えがおよばなかったりするところは人に頼る。
意外とこれができない経営者って多いんですよね。とくに下からの意見を無視してしまうとか。
こだま
なんなんですかね、あれって。プライドなんですかね?
森野
(笑)自分のやり方がいい、正しいと思っているとかなんでしょうかねー。
こだま
上司・部下の間の信頼関係があるかどうかも大きい気がしますよね。
「この人はすごいと思っている。だから意見を聞き入れる。」みたいな。
森野
ありますねー。
Dr.マシリト(鳥嶋和彦氏・ドラゴンボールなどの編集を担当)が言っていたんですけど、
「仕事は部下に任せる。任せるなら何も言っちゃダメ、なおしたらダメ。
信頼して任せる。できないと思ったらやらせるな。」
そういうことなんですよね。
無理なことをやらせるから失敗したときの対応でお互いに信頼できなくなってしまうんですよね。
こだま
あーありますね。
成長だの教育だの体のいい言葉に言い換えているだけで、お互いのことを理解せずにやらせてしまった結果、お互いの首をしめて信頼関係がなくなるんですよね(笑)。
森野
もうよく見ますよ。いや、たぶんこの人に向いてないですから、って(笑)。
こだま
信頼関係が深かかっただろうと森野さんが思う、歴史上の主君・軍師の組み合わせって誰ですか?
森野
三国志が好きだし伝わりやすいと思うので三国志からの組み合わせで言うと、劉備・関羽・張飛の義兄弟ですかね。
一緒に成長していったので仲も良かったんですよね。
三顧の礼で諸葛亮を迎えてから、劉備が「諸葛先生、諸葛先生」となったもんだから関羽と張飛はヤキモチを焼いていたらしいですよ。劉備・諸葛亮孔明も信頼し合っていましたよね。
ちなみに、日本では伊達政宗と片倉景綱が有名です。
こだま
伊達政宗と片倉景綱。真田丸にも出てきましたよね!
主君・軍師の信頼関係ができるポイントってなんでしょうね?
森野
まず仕える側、軍師のほうに能力があること、ですね。
そしてそれを上が認める能力であること。
あと、自分に足りないと思っているところを補う能力があればよりいいですよね。
こだま
補う…
これ、上も下もお互いに認めあうことができるといいですよね。
上に弱いところがあっても下が強ければそこは任せられるし、逆もありますよね。
あくまでも実力があることがベースにあって、その実力をお互いに認めあっていて、強い部分が少し違っていると組織全体として考えたときには強くなります。
森野
そうそう。
サッカーとかラグビーとかのスポーツでもそうですよね。
個がまず強くなって、強い部分をそれぞれが伸ばす。それが全体を強くするんです。
こだま
なるほどー。
今回の対談は「ビジネスの軍師になるために中国の歴史から学ぼう」というテーマで、いろんな歴史上の名将・軍師の話を森野さんに伺いました。
歴史に出てくる考え方や戦術が、これほどまでにビジネス上での戦略・戦術に直結しているとは思っていませんでした。
目指せ!ビジネス軍師!
引き続き中国の歴史を学んでいこうと思いました。ありがとうございました!
一.自分がどうなりたいのか?何をしたいのか?を考える
二.なりたい自分になるために実力をつける
三.経営者・部下との実力を見極めて認める
四.情報は戦略・戦術の要
五.否定的な意見も受け入れる