今回は森野コラムの影響を受けて中国の歴史に興味を持ち始めた歴史初心者のウェブ通事務局こだまが、「軍師」にフォカースをあてた歴史について森野誠之さん(運営堂)から教えてもらいました。
森野さんの記憶ベースで話してもらっていますので細かい部分で違っていることがある場合があります。歴史に学ぶという観点で話していますので、ご容赦くださいませ。
こだま
前の回「中途半端にマーケティングを学ぶより軍事戦略を学んだほうが人間の本質を学べる」で、曹操が兵書「孫子」に注釈を加えた、という話が出ましたが、この頃の人も孫子を読んでいたんですね。
森野
孫子は三国志の時代よりもっともっと昔に作られた書で、これがベースになっているんです。考え方のひとつです。
これをどう解釈してどう応用していくか、が基本的な学問の流れなんです。
論語とか孫子とか共通の学問になっているんですよね。義務教育ってわけではないですけど、あたりまえに学んでおくもの、知っておくもの。
こだま
昔って紙なかったですよね?どうやって学んでいたんですか?
森野
当時は木簡とか竹簡ですね。学ぶ場所もありましたし教えてくれる人もいました。
歴史に学ぶ、っていうのは昔から基本ですね。
曹操は孫子が好きだったんでしょうね。注釈入れていますし。
劉備の軍師だった関羽について知っています?
こだま
パズドラにいます…三国志に登場する名前、パズドラに出てくるなぁ…と思ってずっと聞いていました(笑)。
関羽、何をした人かは知らないです。教えてください。
森野
(笑)
関羽は劉備に仕えていた人です。
関羽は「春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)」が好きなんですよ。ほぼ全文を暗唱できたといいます。
「春秋」っていう歴史書があって、左丘明(さきゅうめい)とかいろんな人が注釈を入れているんです。
誰々が何々をした、と淡々と歴史のことを書いているんですが、注釈がおもしろくて深くてとても歴史の参考になります。
要するにそういうのを読んでいるわけですよ。歴史に学ぼうとしているんですよね。
当時から勉強する場所もありましたし。
こだま
そういえば、始皇帝の軍師・李斯(りし)や韓非子をまとめた韓非(かんぴ)も荀子(じゅんし)に学んでいましたよね。
森野
そうそう。結局歴史しか学ぶものはないんですよね。
こだま
孫子の話が出ましたが、ビジネス書としてもよく役に立つと言われている「論語」「韓非子」「孫子」。
それぞれどんなことが書かれているんですか?
森野
「論語」は、基本的な人の生き方。道徳です。
「韓非子」は、統治者がどうやって治めるのか。経営学です。
「孫子」は、どうやって戦争に勝つか。軍事論ですね。
あと、四書五経(ししょごきょう)って分かりますか?
こだま
ししょごきょう?
森野
四書五経は、基本的な学問の総称です。
四書は、「論語」「大学」「中庸」「孟子」。
考え方について書かれています。
五経は、「易経」「書経」「詩経」「礼記」「春秋」。
考え方に基づいて具体的にどうするのかが書かれています。
当時から、国を治める立場になりたいならこういうのを基本的に学んでおく、という感じですね。
ちなみに、ビジネスの軍師として戦略を考えたり、上司や部下との関わり方について悩んだり、というときにオススメなのは孫子ですね。
軍師・黒田官兵衛も孫子を読んでいましたよ。
こだま
軍師は将軍として軍隊を率いて戦に出ることもあったり、内政でも自分の部下がいたりしますよね。
ウェブ担当者・ウェブディレクターは、上司やクライアントとプロジェクトメンバーとの間で四苦八苦することも多いと思います。
歴史上の軍師も、上には国であったり仕えている主君がいて下には配下がいますが、上と意見が合わなかったり下を統率するのが大変だったり、ということがあったんでしょうか?
森野
あったでしょうね。どれだけ学問を修めていてもなかなかうまくいかない、ってこともあったと思います。今と同じですよね。
やっぱりすごい天才の人たちっていうのは上の人に恵まれていないことが多いですよね。
意見をはっきり言うし、上の言うことが間違っていれば素直に聞くことはないですから、うっとうしいと思われているわけですよ。
で、下の人たちには好かれている。正しいことは上下関係なく意見を取り入れるから。
こだま
韓信(かんしん)がそうですよね。
実際にすごい使える人物だったのに、項羽の下にいるときには意見をまったく取り入れられず重用されなかったから劉邦側に移った。劉邦は下の意見を素直に聞いて正しいことは受け入れる人だったから軍師・将軍としてひとつの隊を韓信に任せた。
森野
そうそう。
まさに孫子で書かれているところの「統治者は将軍を差し置いてはいけない」です。
▼孫子 第三篇 謀攻
それ将は国の輔なり、輔、周なれば国必ず強く、輔、隙あれば国必ず弱し。故に君の軍に患るゆえんは三あり。軍の進むべからざるを知らずして、これに進めといい、軍の退くべからざるを知らずして、これに退けと謂う。これを軍を縻すと謂う。
三軍の事を知らずして三軍の政を同じくすれば、軍士疑う。三軍の権を知らずして三軍の任を同じくすれば、軍士疑う。三軍すでに惑いかつ疑えば、諸侯の難至る。これを軍を乱して勝を引くと謂う。
基本的に上の人っていうのは口を出したいんですよね。でも、任せたなら信じて任せないといけない。
こだま
これって仕事でもホントによくありますよね。
中間管理職のマネージャーやWebディレクターでもこういう場面に遭遇してしまうこと多いです。
リーダーとして部下とプロジェクトをうまく進めているのに、途中から上司が口を出してきてかき回される、とか。
森野
ありますねー(笑)
こだま
戦国の頃の軍師ってこういう場合どうしていたんでしょうね?
森野
出て行く。
上を選ぶんですよね、この頃の時代は。
この人は自分が下につくべき人間なのかを見極める。ダメな主君のもとで無理に頑張る必要もないんですよ。
こだま
でもそれって自分に自信とその自信を裏付ける実力があるからできることですよね。きっと。
森野
そうですね。
逆境がチャンスでもあるわけですよ。
でも間違ってはいけないのは、主君のもとでずっと頑張っている人もいるんですよね。歴史に残っていないだけで。勝っていないから。
ずっとそこで頑張っていることがダメなわけではない。
こだま
そうですよね。そういう人も多いですよね。
森野
そういう人のほうが多いです。
どういう形であれやっぱり、できるようになる、っていうこと先に来るんですよ。実力をつけること。
なんともならんものはなんともならん、とあきらめる。これも大事です。
こだま
あきらめる、っていう判断も本当に今なのかどうなのかを間違えそうで怖い、ってのもありますよね。
森野
自分が納得できるか、ですよね。
出ていく人もいれば残る人もいる。どっちがいいかは分からないですけど自分が選んだ行動に納得できるかですよね。
実力をつけておけば、あとは自分のタイミングと納得、ですかねー。
日本の歴史で言えば、藤堂高虎(とうどうたかとら)って知っていますか?
こだま
名前だけ聞き覚えがありますけど何をした人でしたっけ?
森野
藤堂高虎は、戦国時代から江戸時代にかけての戦国武将なんですけど城をたくさん作った人です。
藤堂高虎は何度も主君を変えているんです。8回かな?自分の実力でさまざまな主君のもとで功績をあげた武将です。
一方で、同じ時代に九州のほうに高橋紹運(たかはしじょううん)という武将がいるんですが、この人はずっと大友家に仕えているんです。圧倒的に負けそうなんだけど逃げることなく、恩・仁義を忘れずに戦った武将です。
どちらも名将です。
実力さえあればどちらでも選べるんですよね。
こだま
自分がどうしたいのか?どうなりたいのか?が大事な気がしてきました。
なりたい自分になるためにまずは学んで実力をつけて、機が熟したときに最大限の力を発揮できるように、って。
森野
そうですそうです。自分がどうしたいの?どうなりたいの?です。
実力が伴っていないと「いやいや、何ができんの?」って言われてしまいます(笑)。
こだま
ふふふ。ですよね。
歴史って本当に学ぶところが多いですね。ビジネスの軍師になるために、「十八史略」を読み終えたら孫子を読もう!と思いました。
次回は「今も昔も戦術の初動はまず情報の分析から」です。