【プレミアム】テレビ離れした若者をスマホで取り込め!AbemaTVはメディアを変えるか? FavoriteLoadingあとで読む

: 事務局
テレビ朝日のセンター長を務める西村氏と、サイバーエージェントの執行役員である卜部氏が今後のメディアについて語り合うということで、ウェブ担当者・ウェブディレクターのみなさんの自社メディア運営にも参考になると思い参加してきました。

ウェブ担当者通信の代表である丸山が「これは!」と思った優良セミナーを受けてきて、感想をお伝えするものです。内容については丸山の解釈が入りますので、間違っている部分があるかも知れません。もし内容を気に入ったり、より詳しいお話がお聞きになりたい場合などは、ぜひ著者・主催者のセミナーに参加されることをお薦めいたします。

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画像:Pixabay

タイトル
テレビ離れした若者をスマホで取り込め!AbemaTVはメディアを変えるか?
開催日時
2016年12月5日(月)19:00 – 21:00
主催
アカデミーヒルズ
講師
西村裕明 ((株)テレビ朝日総合ビジネス局デジタル事業センター長)
卜部宏樹 ((株)サイバーエージェント執行役員/(株)AbemaTV 取締役)
モデレーター:前刀禎明 ((株)リアルディア 代表取締役社長)
受講価格
5,000円

このセミナーについて

このセミナーに参加した理由
先日1000万ダウンロードを達成したサイバーエージェントのサービス「AbemaTV」はかつてないスピードで利用者が増えています。ピコ太郎のCMで記憶している人もいるかも知れませんね。
このAbemaTVはサイバーエージェントとテレビ朝日が組んでAbemaTV株式会社を設立し、協力してコンテンツ制作を行っている動画の視聴サイトです。
本セミナーでは、 テレビ朝日のセンター長を務める西村氏と、サイバーエージェントの執行役員である卜部氏が今後のメディアについて語り合うということで、読者さんの自社メディア運営にも参考になると思い参加してきました。
こんなセミナーでした
セミナーは、最初に卜部さんがAbemaTVの概要について説明。次に西村さんが テレビ朝日側としてサイバーエージェントさんと組むことになった経緯や今後のビジョンなどを話されました。その後座談会形式の質疑応答を交えた雑談で締めたという形です。どうやって集客しているのか?また人を惹きつけるコンテンツとは何か?インターネット文化とTV文化の棲み分けといった内容が議論され、とても面白く、示唆に飛んだものになっていたと思います
セミナー参加者の属性
テレビ局や教授などメディア関係の方が集まっていました。IT系のメディアを運営する社長さんなども。全部で150名が満員でした。
セミナーメモ
ユーザーは意識的に見るメディアとながら見のメディアを使い分ける。
コンテンツ制作力は生き残り力になる。
インターネットメディアだからといって、集客をネットだけに頼るのは間違っている。

興味のある方はぜひ主催者のページをご覧ください。

セミナー総括

「意識的な視聴」と「ながら見」の共存

AbemaTVはインターネット界、特に若者向けのマスメディアになりたいと思って運営している。ここで言うマスメディアとは「ながら見」ができるメディアという意味である。
海外からくるメディアはVOD(ビデオオンデマンド:見たいビデオを視る)を意識しているものが多いが、人間はそれだけでは疲れてしまうのではないかと考えている。
暇つぶしは大切で、そのときには頭を使わずに流しっぱなしで「ながら見」できるTVは最適だった。若者がテレビ離れをしていると言われているが、意外とそうでもなく、スマホを使う時間も増えたというだけである。
そのスマホを使う時間の中で、「まずはAbemaTV見ようかな」と言われるメディアになれたら理想であるし、スマホに限らず、TVを見ている時でも 「ちょっとAbemaTV見てみようかな」と一つのチャンネルのように捉えてもらえると良いと考えているので、コンテンツの配信先を増やす意味でも先日AmazonのFireTVと 提携した。

AbemaTVは、そういう意味でも1つのテレビ局のようなマスメディアのイメージで運営している。
今後もおそらくVODのような「意識的な視聴」と暇つぶしの「ながら見」は永遠に共存していくと思っている。

ながら見と広告

VODの場合CMが入っているとうっとおしいが、ながら見でテレビを見ているときはCMが入ってもなんとなく見てしまう。
テレビ局ではCMは一つの文化という考え方があって、それだけでコンテンツとして成立するような考え方をしている。人生において偶然の出会いは大切だと考えていて、CMはその一つになっていると思う。
実際AbemaTVでは番組の開始時と中間と最後にテレビと同じ大手CMを流しているが、ユーザーがCMを飛ばさずに見ている確率は驚くほど高い。つまり既存のインターネットメディアよりTVにより近いのである。

コンテンツ制作力が生き残り力になる

AbemaTVではコンテンツ制作をサイバーエージェントと テレビ朝日が組んで行っているが、サイバーエージェント側として テレビ朝日と組んで驚いたのは、テレビ局のクリエイティブのベースクオリティがいかに高いかということである。すぐに妥協しない姿勢をみて、インターネットの中で「質よりスピードこそ命。出してから考える」という文化で進んできたサイバー側としてはとても良い刺激をもらっている。
一方、 テレビ朝日側としては、サイバーエージェントのスピードに驚いている。また自分たちがこだわった制作物が必ずユーザーにうけるかというとそうではないので、自分たちのこだわりとは何か?コンテンツとは何かということを考える良いきっかけになっている。

どちらにしろ、異文化の両者が組んだ上で、インターネットという公共の電波より実験がしやすい場所でメディアを展開できているので、いろいろ面白い経験ができている。

テレビ朝日の長期ビジョンでは、今後のニーズとして「視聴形態の変貌」「リアル体験ニーズの高まり」というのをキーにしている。視聴形態はデバイスにより変わってくるだろうし、AbemaTVも含めてHuluなどのプラットフォームは乱立すると考えている。実際調査をしてみると、ユーザーは一ヶ月だけHuluに入り、すぐに退会して次はAmazonに入るなど、ザッピングしながら利用しているケースが多い。
そうすると、どのプラットフォームも欲しがるような良いコンテンツ(どのプラットフォームでも売れるコンテンツ)を作れば、テレビだけの時代より視聴機会が増え収益の最大化が狙える。
TV局としては、コンテンツ制作力が最大の生き残り戦略だと考えている。

コンテンツ制作力とはユーザーに気づくこと

例えばニュースでは、公共の電波の役割として内容を精査し、画質を担保しないといけなかったが、実際にユーザーが望んでいるのは、粗くとも現地ユーザーがとった生の映像だったりする。一方でDeNAの事例ではないが、適当な情報を流すようなメディアはユーザーも信頼しない。
インターネットの中に信頼できるメディアを作りたいと思っている。かつスピード感をもって生の声も優先するようなメディアを作らなくてはいけないと思っている。ユーザーの深い部分に気づき、適切なコンテンツを作れることがコンテンツ制作力である。

目標数値はない

AbemaTVにはインターネット界のマスメディアになるという目標はあるが、目標の売上数値は今のところ3ヶ月先の漠然としたものしかない。これはサイバーエージェント代表の藤田の裁量によるところが大きいが毎年100億円の投資をすることが決まっているだけである。
全員が意識しているのは「ユーザーの習慣化の一つになれるように全力を尽くす」ということだけである。「ながら見」は習慣なので、その一つになれれば、その他の目標数値は自ずと達成されると考えている。

集客方法とアクティブ率について

半年で1000万ダウンロードまでの集客方法

プロモーションで特に変わったことはやっていない。いわゆる普通のことを行っているが、このスピードでの拡がり方はサイバーエージェントでも前例がない。まず拡がるベースには無料のサービスなのに有名芸人さんが出ているオリジナルコンテンツがあり、UX/UIが良いなどの魅力があると思う。開発にはサイバーエージェントの中でも最優秀な人間がかかわって、操作スピードの最適化などを頑張ってきた。

その上で集客の実感をいうと、ネット半分、リアル半分というイメージ。
ネットのプロモーションに関しては、地上波でニュースになっているものをオリジナルニュースとして配信しているが、これがYahoo!ニュースに取り上げられ、大きな流入を生んでいる。
あとは一定層に人気の アニメなどでも高クオリティのコンテンツを揃え、FacebookとTwitterを使い拡散。Twitterは50万フォロワー。そういったところからも少しずつ集客ができている。

リアルに関しては、新聞の折込広告を夏にやった。これは新聞の番組欄を模した広告だったが、これがプロモーションの中では一番効いた。新聞は廃れたと言われているが、まだまだ親世代が新聞をとっていて、子供がテレビ欄だけを見るという習慣は続いていると感じた。我々のターゲットユーザーが若者だからとはいえ、ネットだけで完結するというのは大きな間違い。逆に新聞広告を出せるメディアだということで、AbemaTVの信頼感があがった感すらある。

あと効いたのはニュース番組とのタイアップ。テレビ朝日の報道ステーションとタイアップして、同時に違う観点も交えたニュース番組をAbemaTVで流したことにより、テレビを視聴していたユーザーから「みたい」という興味を獲得し、大幅な利用者増となった。ちなみにピコ太郎のCM効果は微妙(笑)

あとは109の前でのイベント告知など地味なこともずっと続けている。こういったことが効いていると感じる。

アクティブ率

アクティブ率は集客より最重要視している。AbemaTVの計測だと1100万DLを超え、現在は18-30歳の人が半分以上を占めている。開始当初は男性が8割/女性2割(※事務局注)。今は男性6割/女性4割である。
【Active率】
DAU(DailyActiveUser)100万
WAU(WeeklyActiveUser)300万
MAU(MonthlyActiveUser)600万

高Active率の理由は完全にプロによるクオリティの高い様々な動画を24時間流しているところが大きいと思っている。25-30チャンネルくらい常時流れていて、それが無料で、かつ他のネット動画と違いユーザー登録などもなくいきなりニュースチャンネルがつくというところもTVを意識している。

2016年11月の人気ランキングはK-1/AbemaPrime 報道ステーションとコラボしたもの/グレンラガン(アニメ)/キュウソネコカミライブ独占。あとは生チャネルで「ASUKA容疑者」

※なお会場でAbemaTVをダウンロードした人は100人程度いたが、「毎日見る」人は1人と1%程度で、「毎月見る」でも8人の8%にとどまった。この理由を会場の人とパネラーが話した結果、そもそもターゲット層とは違う年配の人ばかりが研究目的でAbemaTVをダウンロードしているからであると結論付けていた。

※事務局注・・・セミナーでは触れられていませんでしたがアダルトな内容が最初にバズったためと考えられます。

広告主との関係と広告効果について

広告主との関係は良好

AbemaTVの収益モデルはテレビと同じCMである。
よく勘違いされるが、広告主へのアプローチはサイバーエージェント側ではなくTV局側のチャネルを使っている。なぜならインターネット広告の担当部署のバジェットは小さく、かつ費用対効果をシビアに求められることが多い。今回のAbemaTVのコンセプトをよく理解してもらえるのはテレビCMを担当している部署で、AbemaTVが低年齢層にアプローチできていることを評価してもらうことが多い。ブランド認知向上に役立ったという結果も出ている。

また地上波では批判を恐れてできないプロダクトプレイスメントなど含め、ネットならではのより一歩進んだCMの形も一緒に考えられるのが魅力。実際にローソンさんなどとインタラクティブなCMを作ろうといった話も出ている。

異文化である両社のチーム編成について

AbemaTVとテレビ朝日の間に軋轢はない

AbemaTVが頑張っているとはいえテレビの視聴者数には到底かなわないし、TVの時間を奪う気もない。AbemaTVで良いコンテンツをみた人がテレビに 帰ってくるなども含めて、テレビ朝日は「コンテンツ」を最重要視している。
やはり双方で資本を出してAbemaTVという会社を作ったので、そこは協力して、インターネットというチャネルを使って、どうやって新しいユーザーの経験価値を作るのか?ということだけに興味をもっている。

協力体制を作るコツ

キックオフの時に温泉で泊りがけの合宿を行った。サイバーエージェントからは藤田社長含めて10名出て、テレビ朝日側も早川会長を含め10名出た。この時にあまりの文化の違いに面を食らったし、この時決まったことは全てテストの結果覆っているが、一番大きかったのは「目標を同じくしてやろう」という距離が縮まったことである。オススメ。

現在の体制

AbemaTVには300名の社員が働いている。番組編成はサイバーエージェント側が主体となって作っているが、当然テレビ朝日の社員もAbemaTVに出向しているし、そこに垣根はない感じ。協力して一緒にすごいものを作ろうと思っているので、ニュースの制作に関しては、AbemaTVだけじゃなくテレビ朝日側のスタッフが動いたりなどフレキシブルに行っている。
そもそも両社は5、6年前からビジネスの協業をおこなってきており、人事交流も行っていたので、AbemaTVが急にできたからということで混乱はない。
むしろテレビに関わっている人間は昨今のBPOや予算の削減により閉塞感を感じており、インターネットで制作ができる可能性に胸を躍らせている。

セミナーを受けた丸山の感想

■総合評価

セミナーとしては、司会の人の切り込みがグダグダになる部分もありましたが、特にテレビ朝日の西村さんの話が上手だったので、最後まで楽しく聞くことができました。
会場にいたテレビ側の人の質問などを聞くと、既存のメディア文化はとにかくインターネット側の人間からすると異文化であると感じましたが、逆にいえば、そういった人たちが作るコンテンツが多くの人にとって魅力的であることも確かです。
個人的には「習慣化する」という考え方や「CMも一つの文化」といったキーワードが心にのこりました。確かに効率的なだけの世界では疲れてしまうので、「適当に見たい」というのも人の人らしさだと感じます。時代は波のように揺り戻しながら動きますから、こういった「日々の暮らし」にフォーカスを充てるのは合っていると感じました。

今後、多くの企業では自社メディア運営を検討することになり、その編集すらウェブ担当者の役割になることが予想されますが、既存メディアをやっていた人たちをチームに加えるなどで、また新しい魅力的なチャネルを作れる可能性があると感じました。

●本セミナーの内容に質問がある方へ
事務局で質問を受け付けます。メンバーズサイトの質問コーナーに記入して頂くか、お問い合わフォームよりご連絡ください。

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この記事を書いた人: 事務局

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