前回は長時間労働とその要因についてを中心に考察しましたが、今回は企業と従業員との“働き方”への意識について考えてみたいと思います。とはいえ長時間労働の要因についてもまだまだ触れていきます。
働き方を語る上で、企業とそこで働く従業員との関係は切っても切り離せない問題です。
さらにはサービスを利用する顧客との関係も複雑に絡み合ってきます。BtoBサービスであれBtoCのサービスであれ、それは変わりません。
企業が提供するサービスの品質は年々上がってきていますが、顧客側のサービスに対する要望はまだまだ留まることを知らず高くなる一方です。その要因の一つに、SNSをはじめとする情報発信・共有ツールの進化があります。
SNSの進化によって企業の顧客ファースト精神がより高まった
ご存知のようにSNS上には企業やサービスに関するさまざまな情報があふれています。
SNS上のクチコミの力は絶大で、インフルエンサーと呼ばれる情報発信力に長けた人が、「〇〇はいい」「〇〇がおすすめ」と発言するだけで、対象となったモノやサービスの価値はあっという間に上昇!インフルエンサーマーケティングという言葉も生まれました。これはタレントなどをイメージしがちですが、業界で知名度のある人物や企業の発言にも同じことが言えます。
しかしSNSには良いことばかりでなくクレームも溢れています。いまやSNSでの批評は単なるクチコミに留まらず、株価や業績にまで影響するほど大きなものとなり、企業も神経を尖らせているのです。
顧客ファーストがつくり出した、歪んだ構造
この様な背景もあって各企業はSNSでのクチコミに敏感になり、顧客満足度を高めるための施策を積極的に行っています。
しかし、そこに従業員の満足度はあまり考慮されていないのが実情です。
最近、私のまわりでこんな話がありました。
ある食品関連企業は、顧客からの要望によりサービス品質向上を追求することに。
ただでさえギリギリの人数で仕事を回していた現場。必然的に業務量は増え、スタッフの長時間労働も増えていきました。
しかしどれだけ頑張ってもスタッフの待遇が改善されることはありませんでした。待遇改善を訴えても経営陣は「お客様のために頑張るのは当たり前だ!」と聞く耳を持ちません。
そんな環境では現場スタッフたちのモチベーションは低下するばかり。それでも品質を保ち続けようと一部のスタッフたちは頑張っていましたが、次第に目標を達成することができなくなってしまいました。その結果、スタッフたちは成績が下がったことで経営陣や管理者から叱責され、人事評価も低下がってしまいます。
現場スタッフたちは再度待遇の改善を訴えましたが、「お客様のために頑張れていないのに何も言う資格はない」と却下されてしまいます。これでは負のスパイラルです。しかし経営陣はお客様の満足が全てと信じて疑わず、何も対策を講じませんでした。
そして最悪の展開が訪れます。
経営陣と現場スタッフの軋轢に耐えられず、人事部の9割が退職してしまったのです。しかし、会社の体質はそれでも変わりませんでした。なんと品質を保ち続けようと頑張っていた、評価ナンバー1とナンバー2のスタッフを、企業の意にそぐわないとして解雇してしまったのです。
その後、残されたスタッフたちのモチベーションはさらに低下。その企業はサービス品質を落とし続け、いまでは親会社からのおこぼれ仕事をすることでしか存続できなくなってしまいました。お客様のためにと動いていたはずが、そのお客様との接点すらなくなってしまったのです。
この企業のケースはあまりに極端ではありますが、顧客への満足を意識するあまり、社内で働く人たちのことを置き去りにしてしまい実際にあったお話です。
しかし、これはどこの企業でも起こり得ることだと肝に銘じてほしいです。何十社、何百社の採用にかかわるお仕事をさせていただきましたが、正直こういった企業はたくさんあります。
高品質サービスの提供があたり前=従業員は頑張ってあたり前ではない
同じ会社にいるからといって、全員が同じ方向を向いて同じスタイルで働いているわけではありません。
経営陣、営業、現場管理者、カスタマー…。それぞれに同じ理念を共有していても、働くスタイルや想いにはそれぞれに違いがあるということを、意識しておく必要があると私は思います。
不適切写真アップの“バイトテロ”で……宅配ピザ店運営会社が破産(出典元:ITmediaビジネスONLiNE)
この件では、スタッフの悪ふざけによって企業が倒産するという事態にまで発展しています。社外へ意識を向けるあまり、社内への意識が疎かになってしまっては意味がありません。
自社のスタッフにも目を向けられないのであれば、顧客ファーストなんて夢のまた夢ではないでしょうか。
次回は多様化する働き方と時間管理について考えてみたいと思います。