Nさんとインタビュアー(東郷)は、リモートワーカーかつ子育て男子と、共通点が多め。
子育てとの両立のリアルから、セルフマネジメントの大切さまで。“新しい働き方”の実態について、とことん語っています。
【Nさん プロフィール】 企業に所属することで得られる自由度を最大活用しているシステムエンジニア。
入社以来、勘定系システム、情報系システムの設計やアーキテクチャの整理、開発標準の策定、製品開発などに従事している。
東郷:本日はお時間いただきましてありがとうございます。
今回、お互いに「リモートワークをしながら子育てする父親」という立場で対談させていただきますが、まずはどういったお仕事をされているのか、お聞かせいただいてもよろしいですか?
Nさん: システムエンジニアです。システム開発にずっと関わっています。
東郷: 新卒でいまの企業に入られてから、ずっとですか?
Nさん: そうです。よく聞かれるんですが、一回も転職したことがなくて。新卒で入社して以来、もう20年近くやっていますね。
東郷: ではリモートワークをしながらの子育ても、いまの会社で始められたということですよね。会社の環境的に対応が難しかったり理解が得られなかったりと、転職を考える分岐点がありそうだなと思うんですが、それもまったくなく?
Nさん: ありました、ありました!(笑)1回、人事に話すところまでいきました。もう辞めるわって。
“リモートワーカー=フリーランス”ではない
東郷: そこまで話をされたことはあったんですね。いまの会社でリモートワーカーとして働きだしたのも、その辺りがきっかけですか?
Nさん: そうかもしれないですね。でも入社2年目ぐらいから、ほとんど出張を続けているんです。関西に居住しながら、東京へ出張に行って。当時は月曜日から金曜日まで、ずっと出張していることも多かった。だから僕の中では、リモートワークという定義がよくわからないんです。
東郷: そうなんですか?
Nさん: 最近、リモートワーク、リモートワークってみんな言いだして、“在宅ワーク=リモートワーク“みたいな認識だったりするじゃないですか?出張先のカフェで仕事をすれば、ノマドワーカーと呼ばれる。でもこっちからすると、ずっと出張でリモートワークをしているので、“仕事は自社に行ってするもの”という認識があまりないんです。仲の良いお客様のところに常駐させてもらっていたので、仕事中はそこの会社に行くのが普通でした。たまに自社へ行くこともありましたけど、キャリアのほとんどが出張・宿泊していますからね。
東郷:リモートワーカーってフリーランスのイメージが強いですけど、案外会社員の方にも多いのかもしれませんね。
Nさん: そうかもしれないですね。たとえば関西圏の人だと、東京に行ったり地方を回ったりする機会が多いじゃないですか。僕も沖縄から北海道まで、結構あちこち回っていました。中には「出張先がニューヨークでした」という、贅沢なのか悲しいのかわからない経験をした知人もいます。
東郷: 出張の多い仕事環境が、リモートワークを身近に考える要因になった?
Nさん: なりましたね。
「いまは客先や在宅で働くことは理解されないけど、変えていけばいい」
そう言ってくれる人がいた
東郷: ではこれまで、リモートワークを不便に感じたことはなかったんでしょうか?
Nさん: 不便というか、出張カバンにテーブルタップを持ち歩くのは重かったですね。「職場どこですか?」「ここですよ」って、いまいる場所を指すようなやりとりをしていました(笑)。
そんな生活が20年くらい続いているので、職場はどこでもいいんです。ただずっと客先にいたり、在宅で仕事したりしていると、「案件を相談できない!」と会社の人から言われることも出てきて。要望以上の仕事はしているつもりだし、高い給料をもらっているわけでもない。なのになんで言われなきゃならないの?って気持ちになるじゃないですか。
そんな思いがあって、一度「会社なんか辞めたれ」となったんですけど、結構引き止めてくれた方がいたんです。
「いまは客先や在宅で働くことは理解されないけど、そういう風に変えていけばいいじゃん」と言ってもらって。それで縁があって、そのまま会社にいるわけです。
お客様から「会社に来なくても仕事するんだろ?」と声をかけられた。
「当たり前じゃないですか」と返したのが、ひとつの転機かもしれない
東郷: 理解してくれる人が近くにいたのは大きいですね。でも会社の理解が得られないままではキツくないですか?
Nさん: 子どもが産まれてからも出張生活は続いていたんですが、2歳ぐらいのころ、子どもが入退院を繰り返していた時期があったんです。そのときは月に半分も出勤できなかったんですよね。
東郷: それは大変な状況ですね……。
Nさん: 子どもの入院に重なり、祖母が亡くなったんです。結果的に、20営業日の内で6~7日くらいしか出勤できなかった。でもそのときは、お客さんの方が理解してくれて。「お前は別に会社に来なくても仕事するんだろ?」って言われて「当たり前じゃないですか」と返したのが、次の転機かもしれないですね。
東郷: なるほど。実際に接しているお客様が理解してくださるのは、とても大きいですね!
Nさん: 大きいですね。こういうときって、年休を取れるかどうかなんて話になりがちです。そうではなく、“環境的に出社していなくても、仕事ができるか”という話をお客さんとできたことは大きかったです。
東郷: それは本当にそうですよね。やれリモートワークだパラレルワークだと、新しい働き方を推奨・導入しようって動きが取り上げられることが多いじゃないですか。でも実際には、自社の理解があったとしても、お客さんが難色を示す場合がある。これは導入を妨げる大きな要因になっていると思うんです。
Nさん: 自分の場合は恵まれていたのもあったと思います。当時はまだセキュリティがどうこうと言われてなかったので、子どもと一緒に病院に泊まって、病室で仕事をするんです。で、子どもが1回退院すると、こっちも倒れると(笑)。
Nさん・東郷: (笑)
Nさん: 恵まれているものの、やっぱりしんどかったですね。1週間入院して倒れて、それを繰り返すんですよね。
いまは物理的にも精神的にも、リモートワークをしやすい環境になってきている
東郷: それは精神的にも疲労しますね。
Nさん: そうですね。まだ小学校に入る前の2~3歳の子どもと、病室のベッドで一緒に寝ながら仕事をするわけです。限界がきたら、ちょっと嫁や嫁の親父さんに見てもらって、その間に職場に連絡して。
リモートワークができる環境にあっても、まだその環境を使いこなせていなかったんですよね。だから余計にしんどかったような気がします。
東郷: いまはしんどさを感じてはいらっしゃらないんですか?
Nさん: 環境面っていろいろあるじゃないですか。精神的にも、物理的にも。当時は通信環境がPHSとかで、接続スピードも遅いし、病室内では使えなかった。
いまは入院することもなくなったので詳しくはわからないですが、昔より普通にネットも使えたり、Wi-Fiも完備されていたりするじゃないですか。精神的なものだけじゃなくて、物理的な環境もすごく進んでいると思います。
“顔合わせは必要なときに、必要なものだけする”
東郷: 確かにそうですね。昔と比べると働き方も変わってきています。「新時代の働き方!」なんて特集されることも少なくないですし。なかなか本社に行けない地方の営業マンが、拠点にいながらツールを駆使して会議に出席したり、コワーキングスペースを拠点にして営業に回ったり。そういう働き方が当たり前にできる環境が整ってきています。当時はそんな環境もなかったですもんね。
Nさん: そうですね。
東郷: 当時としては過酷な環境だったわけですが、そのおかげで身についたことはありますか?
Nさん: スケジュール管理は徹底しました。「出勤日にはこの話だけはしておこう」と決めたり、打ち合わせに行けない可能性があるときは、抑えるべき方針を確認して、夜中にアウトプットを見たり。“顔合わせは必要なときに、必要なものだけする”というのは、そのときに身についたものだと思います。
Vol.2へ続く