PDCAサイクルという言葉を、知らないという人はほとんどいないでしょう。
もはや、一般的なビジネス用語として定着した感じがします。
一方で、最近では、PDCAサイクルに代わってOODAループという理論が注目されていることをご存知でしょうか?
この記事では、
について、ご説明していきます。
PDCAサイクルとは、
の頭文字をとったものです。
PDCAサイクルとはどんなものだったか、簡単に確認しておきますね。
PDCAサイクルは、意思決定と行動に関する理論です。
ビジネスではざっくりと、「計画と改善を繰り返す」くらいの意味で捉えている人が多いと思います。
もともと製造業の品質管理から生まれたもので、数年先が見通せる環境で活躍する理論です。
「車の部品の強度を、5年で20%アップさせよう」
「三年間で、コンビニの品切れによる機会損失を20%削減しよう」
「再来年の営業成績を30%アップさせよう」
というように、上層部が立てた計画を、現場が実行していきます。
OODAループとは、
の頭文字をとったものです。
OODAループも、PDCAサイクルと同じく、意思決定と行動に関する理論です。
最近、PDCAサイクルに代わって注目され始めています。(理由は後述)
PDCAサイクルの起源が製造業であるのに対し、OODAループは朝鮮戦争の航空戦から生まれたものです。
戦争で戦っているパイロットが、激しい変化に対応しながら、スピーディに意思決定をしていくためのものでした。
PDCAサイクルが上層部からの指示をもとに、Plan(計画)を立てるのに対し、OODAループでは、現場が自ら意思決定を行います。
OODAループは、政治や経営などを始めとして、幅広い分野で活用されており、米国のビジネススクールでも教えられているようです。
環境変化が激しい、主に新規事業や基礎研究などで活躍します。
OODAループを概念図にして表すと、次のようになります。
PDCAサイクルと違って、計画(Plan)からではなく、Observe(観察)からスタートしていますね。
上層部から計画を与えられるのではなく、現場が情報収集をして、自ら判断、決定、行動していくのです。
もちろん、大枠の目的や目標は上層部から現場に与えられています。
しかし、目的や目標を達成するための手段は、激しい変化に合わせて、現場が素早く決めていくのです。
OODAループが注目されている背景には、VUCAと呼ばれる社会情勢があります。
知らない方も多いかと思いますので、VUCAという言葉から説明していきますね。
VUCAとは、
の頭文字をとっている言葉です。
Volatilityとは、変動性という意味の英単語です。
AI、IoT、5Gといった技術革新によって、変化が激しい状況をさします。
新しい技術がどんどん生まれ、数年前の勝ちパターンが通用しなくなっている業界も多いでしょう。
Uncertaintyとは、不確実性という意味の英単語です。
将来が見通せない状況を指します。
コロナウィルス一つとっても、十数年先、数年先すら予測が難しい現状です。
Complexityとは、複雑性という意味の英単語です。
従来は、自動車業界は自動車業界のこと、小売業界は小売業界のことだけを考えていればよかったと思います。
最近では、業界の垣根、国境の垣根が薄くなりつつあると言えるでしょう。
GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)を始めとした巨大IT企業が、業界、国境の壁を超えて、市場を奪いにきています。
Ambiguityとは、曖昧性という意味の英単語です。
絶対的な正解が見つからない状況を指しています。
従来であれば、より大きな資本を持つ、大企業が絶対的な力を持っていました。
しかし、今では、伝統的な大企業は、組織が大きく官僚的な文化ゆえに、激しい変化に対応できず、倒産してしまうケースも少なくありません。
VUCAの時代で、将来が不確実であるいうことを示す事例を紹介します。
米国アップル社は、計画について次のようにとらえていると言うのです。
アップル社では、3ヶ年計画を「ドリーム」と表現していると言います。(OODA Management, 原田 勉)
一般的な企業では、中期計画といえば、3~5年計画を指すことが多いでしょう。
イノベーションのスピードが早く、3年後なんて予測ができないという理由から、ドリームと表現しているというのです。
変化のスピードがどれほど早いかを示す、いい事例と言えますね。
VUCAの時代にPDCAサイクルがうまく回らない理由は、変化が激しい環境のもとでは、うまく計画(Plan)が立てられないことが挙げられます。
PDCAサイクルにおいて、計画(Plan)は上層部が将来の予測にもとづいて立てるのですが、将来の予測が当たらない場合が多いです。
変化が激しい状況では、上層部が正しい情報、最新の情報を手に入れることが難しくなってきています。
上層部が、誤った予測から計画(Plan)を立ててしまうのです。
変化が激しい環境で、PDCAサイクルがどううまくいかないのか、具体的にご説明します。
まず、Plan(計画)の段階に、上層部が、
をもとに、現場が実行するべき計画を作ってしまいます。
Do(実行)の段階では、現場がPlan(計画)を実行しようとしますが、そもそも計画の時点で失敗しているのでうまくいくはずもありません。
Check(検証)の段階でうまくいかなった原因を探すと、計画の段階で失敗していたことに気づきます。
Action(改善)の段階で、教訓を活かそうと、
を集めて上層部は改善策を考えます。
しかし、現場がDo(実行)する頃には、また環境が変わってしまい、改善策が空回りしてしまうのです。
VUCAの時代にOODAループが注目されているのは、OODAループでは現場に権限を持たせることで、激しい環境変化にスピーディに対応できるからです。
PDCAサイクルでは上層部がPlan(計画)をたて、現場がDo(実行)していたのに対し、OODAループでは現場がObserve(情報収集)からAct(実行)までの全てを行います。
戦場で戦うパイロットには、上司からの指示を待っている余裕はありません。
自分で情報収集を行い、戦況を判断し、意思決定して動いていかなくてはならないのです。
AI、IoTなど、変化が激しい時代には、戦場のパイロットのように意思決定をしていく必要があると言えるでしょう。
変化が激しい環境で、OODAループがどのように活躍するか、具体的にご説明しますね。
まず、現場がしっかりとObserve(観察)を行うことで、現場でしかわからない細部の情報や変化まで把握することができます。
次に、観察した情報をもとに、現場がOrient(情勢判断)を行います。現場にいる人間がリアルタイムで行うため、より専門的で、スピーディな判断ができます。
Orient(情勢判断)にもとづいて、そのまま現場がDecide(意思決定)をこないます。上層部とのやりとりが挟まない分、リアルタイムで実践的な意思決定となります。
Decide(意思決定)が終わると、速やかにAct(実行)に移されます。Act(実行)してからも、その結果や外部の状況変化を常にObserve(観察)し、スムーズに、Orient(情勢判断)、Decide(意思決定)、Act(実行)につなげていくのです。
PDCAサイクルと比較して、迅速にループが回るので、激しい変化にも対応できることがわかるでしょう。
最後に、
「もっと詳しく、OODAループのことを知りたい」
という方に向けて、OODAループを学ぶのに最適な本を2冊ご紹介します。
どちらも、私が実際に購入して、読んでみてよかったと思う本です。
最初にご紹介するのは、「OODA LOOP(ウーダループ) – 次世代の最強組織に進化する意思決定スキル」という本です。
OODAループの生みの親であるジョン・ボイド大佐に長年師事されていた、企業コンサルタントのチェット・リチャーズさんが書かれています。
少し難しいビジネス書ですが、アマゾンや書店で他の本と比べてみる限り、OODAループについてもっとも詳しく書いてある本だと感じました。
もともと海外の本ですが、2019年に日本版が出版されています。
次にご紹介するのは、「OODA Management(ウーダ・マネジメント) – 現場判断で成果をあげる次世代組織の作り方」という本です。
神戸大学大学院で教授をされている、原田勉さんが書かれています。
先ほどの本「OODA LOOP(ウーダループ) – 次世代の最強組織に進化する意思決定スキル」の翻訳と解説を書かれた方のようです。
著者の方が日本人ということもあり、先ほどの本よりも、だいぶとっつきやすく、読みやすいと思います。
2020年8月に出版された新しい本です。
企業の事例がたくさん書かれてあって、理解が深まりやすい内容でした。
環境変化が激しくなっている今、PDCAサイクルに代わって、OODAループが注目され始めています。
日本ではOODAループはまだ馴染みがありませんが、VUCAの時代においては、必要に迫られて定着していく可能は高いかも知れません。
特に変化の早いウェブ業界において知っておいて損はない言葉ですので、ご紹介しました。