【プレミアム】AI導入は企業に何をもたらすのか?今何を考えておくべきか?第2章 FavoriteLoadingあとで読む

: 床尾 一法
もはやバズワード化している「AI」という言葉。 「人間を凌駕する機械」的な意味で漠然と語られ、施策に人工知能を用いることの意味や意義が曖昧な場面も見られます。大事なことはAI導入から期待される結果、そしてその目論見です。第2章は【AIによる効率化論とともに語られる人材論】について。

目次

ところで、AI論で闇雲によく語られるのが「自分たちの仕事がなくなってしまう論」です。

これはマーケティングやビジネスの現場から見れば、技能やノウハウという面では「そうかもしれない」し、戦略立案という面では「(しばらくは)そうではないだろう」というのが個人的な見解です。

筆者は現在、新規事業開発部門を兼務しつつ人事部門に主務として所属し、社員の能力育成とそのためのカリキュラム設計や講師を担当しています。人材育成論と能力開発論は、この「AIが仕事を奪う論」と議論のとてもよく似ています。

そもそも「AI」という言葉を語らずとも、業務における運用タスクというものは仕組み化した時点でアウトソーシング化できるもののはずです。みなさまのWeb運用技術やノウハウも例外ではなく、型化・仕組み化が出来れば外注できるものです。

今回のテーマでいえば、代替となる手段やリソースが「AIか?社外の人員か?」という違いにすぎません。

戦略側に立つ人材は求められ続ける

人材育成の取り組みにおいては、戦略的かつ論理的な思考ができる能力の評価と、施策の遂行や運用に必要な技能や知識の評価を切り分けて考えています。

Webに関わる皆さんの例でいえば、SEOや広告、マーケティングの施策運用技術はあくまで「その時の市場」に求められる技術であり、10年後はどのような技術が中心になっているのか予測はできても確証を持って身につけることはできません。

また経営戦略は市場での状況を鑑みて常に更新されていきますから、求められる技術も常に「経営戦略に沿って」その先を予見した次世代のものであるべきです。既存の技術が陳腐化すれば、それに頼っていたビジネスや人材は消えていくことになります。

仮に、とても才能のある方が10年後を予見して取り組み、その予見が的中すればその方は先駆者としてマーケティング業界をリードできるでしょう。とはいえ極めて属人的な現象であり、こと人材育成の現場ではそのような「天才」の出現を待ってはいられません。

ですが、戦略的思考の能力を持つ人材については話が異なります。技術がその時代時代で変化しても、それらを的確に選別して用い、現市場で必要なマーケティング技術と近い将来中心となるであろう技術をトライアルし、戦略を練って『使う側の人材』はどの企業でも普遍的に求められます。

しばらくは人工知能に置き換わることがないであろう領域です(そこまで機械に任せてしまうと人間として生きている価値が見いだせませんからね)。

ビジネス人材育成の観点からみれば、技術が変化しても、新たにそれらを導入して「戦略的に技術を使いこなす」側の人間となって欲しいのです。

これは技術を「AI」という言葉に置き換えても全く同じことです。また、先述のように「社外パートナー」「メンバー」「組織」「経営」「決裁者」という言葉にも置き換えられます。

市場の状況、人々の行動、物事の変化と本質を常に捉え、常にすべきことを思考する側に立っていれば、「AI」も「社外パートナー」や「社外リソース」という手法の選択肢のひとつにすぎません。

現職では、論理的思考で事業戦略を練る力をある程度の「お作法」として伝え、常に何をすべきか何が必要かを考える人材を育成することに挑んでいます。彼らがAIを使いこなし、新たな事業戦略やマーケティング戦略を推進する日も近いでしょう。

AIを活用して未来の可能性を探り当てる「戦略側の人材」になる

ビジネス現場におけるAIという言葉は、「自動的に」「効率的に」という結果を前提に語られるべきものではないと考えます。ビジネスやマーケティングの戦略上、限られたリソースの中で効率化するべき点を効率化し、膨大なデータから人間の限界を超える作業で導き出された新たな戦略的「可能性」を見出すツールとして捉えています。

Webマーケティングの分野で例えると、今まで見向きもしなかった、あるいは考えもつかなかったユーザーセグメントに対し自社サービスに振り向かせる広告配信の掛け合わせやタイミングを発見した、といった可能性が考えられます。

そこで、そのセグメントは「どうせ儲からない」と考えるのではなく、新しい市場を発見したと捉えられるかどうかが戦略思考型の人材として生き残っていくポイントです。

未来の可能性を発見する、すなわち未知の市場を発見するために仮説をたて、新しい技術をトライアルする姿勢こそ、AI時代のウェブ担当者に求められる姿勢だと思います。

機械学習は人間が考えもしなかったデータの相関関係や判断の分岐点を見つけ出すことができます。実際、筆者も取り組みの中でその結果を体感することができました。

読者のみなさまもAIだけでなく、新しい技術に対してビジネス戦略思考で向き合い、必要な技術を見定め、可能性の発見を導き出す道具として取り組んでみてはいかがでしょうか。

床尾 一法
この記事を書いた人: 床尾 一法

自ら大規模商用Webサイト運営を多く体験、Web解析による「見えること化・言えること化・できること化」を軸とした集客戦略、ユーザーとの対話シナリオ設計、ユーザー行動分析を得意とする。
2014年に独立後、常駐先であった中古車流通最大手(東証一部上場)の企業に出戻りで2回目の入社。集客戦略の再設計、新規事業開発に従事。
現在は人事部に所属し、ビジネス思考力の育成指導、事業を生み出し推進する人材を育成する教育責任者を務める。また、社外各所でもWeb解析担当者やオンラインマーケターを育成するための講師を務め、将来はマーケティング人材育成機関の設立を目指している。