ウェブ担当者通信の代表である丸山が「これは!」と思った優良セミナーを受けてきて、感想をお伝えするものです。内容については丸山の解釈が入りますので、間違っている部分があるかも知れません。もし内容を気に入り、より詳しいお話がお聞きになりたい場合などは、ぜひ著者・主催者のセミナーに参加されることをオススメいたします。
画像:Pixabay
Amazonのイベント「AWS re:Ivent2017」に参加してきました。
AWS re:Ivent2017とは、毎年一回行われるAmazonAWS主催の世界的なイベントです。
今年も会場はアメリカのラスベガス。
開催期間は2017年11月27日から12月1日までの一週間で、全世界から4.3万人もの人が集まりました。
AmazonのECサイト関連でそんなに人が集まるのか?と思った方もいるかも知れませんが、これはAWSとよばれるAmazonの開発者向けサービス(サーバーやEchoなど)に関するイベントです。
開発者が集まるイベントだからこそ、最新のテクノロジーや事例などが発表される場でもあります。
クラウド時代の勝ち組と呼ばれるAmazonは、今何を考えているのか?
また、そこから見える未来の技術は何があるのか?
今回はそんなイベントで感じたことをレポートとしてご報告したいと思います。
余談ですが、イベント参加費200,000円近くし、旅費も含めると確実に400,000円を超えるため、なかなか参加をためらうようなイベントとなっています(笑)。
会場は、ラスベガスのホテル群。ベネチアンやMGMなど内部にカジノがあるとても大きなホテルでした。アメリカはスケールが大きいですね。
開催期間のラスベガスはAWSのre:Invent一色です。
本当にさまざまな機能が発表されました。
こちらでタイトル右に画像アイコンが表示されているいくつかのセッションは録画で見られます。(英語です)。
www.portal.reinvent.awsevents.com/connect/search.ww
ウェブ担当者はサービスを作り出す人ですから、知っておいた方がいいのは、以下の3つだと思います。
Amazonが保有するビッグデータを活用した各種サービスがリリースされています。
▼Amazon Rekognition 画像と動画の分析API
aws.amazon.com/jp/rekognition/
▼Amazon Polly 音声読み上げAPI
aws.amazon.com/jp/polly/pricing/
AWS DeepLensというカメラが30,000円弱で発売予定です。
これは機械学習によるプログラミングが可能なカメラで、顔認識などができます。
aws.amazon.com/jp/deeplens/
こういったIoTデバイスの制御を実現するために、Amazonは無料のIoT用OSであるFreeRTOSをカスタマイズしたAmazon FreeRTOSをリリースしました。
aws.amazon.com/jp/freertos/
また機械学習をより身近にテストできるサービスであるAWS SageMakerもリリース。
aws.amazon.com/jp/sagemaker/
Alexa for Businessという、オフィス利用を想定したサービスもリリースしています。
例えば音声を活用してGoogleカレンダーなどと連携した予定追加や会議室予約などが行えます。
aws.amazon.com/jp/alexaforbusiness/
デバイスや機械学習をサービスに活用できる時代に入ったといえます。
基調講演ではシーメンスやエクスペディアなど世界的な企業が出てきましたが、もちろんその各社がオンプレミス(自社サーバー)からAWSに移行してきた企業です。
彼らは「クラウド・ファースト」という言葉を使っていました。
これからの時代は、自社サーバーの使用を考える前に、クラウドサーバーを使わなければ“ならない”ということです。
なぜなら、IoTなどの未来を考えると、クラウドのように世界中にコンピューターがあった方が通信もうまくいくし、さらには機械学習のようなコンピューターパワーが必要なサービスも手軽に利用できるからです。
自社サーバーを使う前に、まずクラウドが使えないか?と一番に考える姿勢が求められてきています。
アメリカはだいたい日本の2年から3年くらい進んでいますので、日本でも2年後くらいにはクラウドファーストという言葉が出てくるかもしれません。
総じてですが、もはや自前だけで何かをやっていくのは非効率な時代に入ったと言わざるを得ません。
何かとうまく他力を活用し、よりよいサービスをスピーディーに提供することが求められている時代に入ったと思います。
より高品質なサービスを作るために、デバイス、自然言語、音声、動画、機械学習を活用したサービスを考えてみたいです。
また自社のデータでAWSのSageMakerを使って機械学習を試みるというのも面白いかもしれません。
機械学習が得意なことは、シミュレーションと分類です。特に今は画像分類が多いですね。
いよいよリアルとネットが融合する時代といえるかもしれません。
イベント後にはrePlayという無料で飲食ができるイベントが開催されます。
無料飲食ができる他、DJが音楽をガンガン流したり、ビリヤードやコンピューターゲームなどができたり、本当にエンターテイメントの国だな、と思いました。
余談ですけど、今回は主に世界中のエンジニアの人が集まったわけですが、どういうわけか服装に統一感があります。いわゆるネルシャツとジーンズ。
世界共通で好みが似るのかもしれません。
先に記載した通り、今回のイベントで、Amazon(正確にはAWS)はさまざまな新機能を発表していました。
しかし、表だっては書けない感想なのですが、全体を通して、見え隠れする計算や合理性が個人的には気になりました。
例えば、私は以前サンフランシスコで開催されたOracle社のカンファレンスに出たことがあるのですが、その時は気前の良さを感じたのですね。
Amazonには、随所にその気前の良さを感じず、むしろ細かい計算を感じるのです。
例えば、食事会場の案内が少し不親切だったり、翻訳機をスマホアプリに代替してケチっていたり(しかもうまく動かない人多し)、会場にラスベガスを選んだのも、楽しい思い出とAmazonを結びつけてもらうという計算が働いているような気すらします。
これはあくまで感覚なのでうまく説明はできませんが、もし当たっているとすれば、Amazonは恐ろしく合理的で、恐ろしい企業なのかもしれません。
そこで、今回はその恐ろしさを紐解いてみたいと思います。
AmazonはECサイトからスタートしています。
彼らが物流を重要視しているのは有名ですが、その理由についてはあまり触れられたことがありません。
よく言われているのは「顧客の課題がそこにある」という表現ですが、私は今回のイベントに参加して、そのような生やさしいものではないと感じました。
彼らは徹底的に合理的に考えた結果、「根本のインフラ」を押さえようとしているように感じます。
通常、私たちはインフラというと道路や鉄道などを想像します。
しかし、その道路や鉄道の目的は「人物輸送」と「物流」です。
つまり、道路や鉄道などは目的から見た手段でしかありません。
私がいう根本のインフラとは、どちらかというと「手段」より「目的」に近いものです。つまりAmazonは目的を手に入れようとしています。
しかし目的には形がありませんので、別の具体的なものに変換して手に入れなくてはいけません。おそらくAmazonが手に入れようとしているのは「データ」です。 具体的には物流という“流れ”のデータです。
流れを眺めれば、目的地の場所と、それに向けて何が起っているかがわかります。
流れを大きく、スムーズにするほど、勢いは増していきます。
仮にAmazonの目的が「流れという根本のインフラ(データ)を押さえること」だとすると、彼らのやっていることが理解しやすくなります。
根本のインフラはなくなることがありません。
そして残念ながらその他のサービスは、すべてAmazonのための手段にしかなりません。つまりJRだろうがクロネコヤマトだろうが、いつかは代替可能ということです。
Amazonが帝国と呼ばれ、起業家のジェフ・ベゾスが世界一の長者になったのも、根本のインフラを押さえているためだといえます。
彼らは本当の根っこを握ってしまいます。
その結果、未来に向けて適切な手を打ちやすいですし、仮に間違っていても修正も早くなります。
Amazonが真に恐ろしいのは、根本のインフラを握った“外資系企業”だということです。外資系企業は日本企業に比べて徹底的に合理的なことが多いです。
少し外資系企業と日本企業の違いを考えてみましょう。
よく考えると、本当はクロネコヤマトにもAmazonと似たようなことができるはずです。
誰が何を好んで購入しているか理解しているからです。
しかし、彼らはECサイトは作りません。あくまで他の企業との協業や役割分担を受け入れています。
一方でAmazonは容赦なく儲かりそうなところには手を出してきます。これは非情に合理的だからでしょう。
私は、ひょっとすると、Amazonはジェフ・ベゾスの巨大な実験企業なのかも知れないと感じています。
Amazonは偶然につけられた名前なのですが、実は流域面積が一番大きい川の名前です。
ロゴイメージがAtoZになっているのも、上流から下流まですべての流れを押さえるという意味にもつながります。
名は体を表すという言葉があるように、偶然とはいえ、ジェフ・ベゾスの思考を研ぎ澄ますと、自然と流れを押さえるという思考に至るのかもしれません。
Amazonが全ての流れを押さえてしまい、すべての企業がAmazonにとっては手段でしかなく、手の上で踊るしかない。
誰も逆らえない激流を非情に作り出しながら進む企業。
それがAmazonといえるのかも知れません
さて、今回のre:Inventに参加し、私は少し愕然としました。
なぜなら、AmazonはECだけでなく、もう一つの巨大な根本インフラを握ろうとしているからです。
それはコンピューター上のデータの流れというインフラです。
技術者の人であればよりピンと来るかもしれませんが、基本的に、すべてのコンピューターを使った処理というのは、データの流れでしかありません。
彼らはそれに気づいており、その全てのデータの流れを押さえようとしています。
すると、やはりECサイトと同じように、今度は多くのソフトウェアが、Amazonの上で消費者に比較され、安い値段で購入されていく運命にあります。
それどころか、人間の情報処理というのは、すべてデータの流れですから、これからIoT時代に入るとAmazonはより多くのことを学んでいき、一大帝国を作ることになるでしょう。
今後、おそらくAmazonは各国の政府と戦いをするほどの巨大企業になるはずです。そして私たちはAmazonに利用料という税金を払いながら、暮らすことになるのだと思います。
さて、ここまでAmazonが恐ろしいということをお伝えしましたが…
どうしようもないので、白旗をあげるとして、本当にAmazonは我々にとって恐ろしいのかを考えてみましょう。
基本的にAmazonが作り出す激流は、ユーザーの立場では便利なものばかりです。
実際に私もAmazonプライムの会員です(笑)
一方で、利益を出そうという企業にとってはツラい状況を作り出しています。つまりユーザーの立場が強すぎる状況を作り出してしまうのですね。
もし日本の企業であれば、三方よしを目指すかもしれませんが、Amazonは外資系の企業なので、今までの動きを見ていてもAmazonが一番良い状態を作り出す傾向が強いと感じています。
そしてユーザーにぬるい体験をさせながら、関連企業の力は弱めるような施策を作るでしょう。まるで江戸時代の参勤交代のような状況です。
Amazonが作るのは、ユーザーとして楽しく暮らす分には悪くないが、中途半端な企業には当時の大名のように辛い状況です。
つまりAmazonは、ユーザーではなく企業の体力を奪うような状態を作るから恐ろしいのですね。
このような状況が、物流関連と、今後はICT・ソフトウェア関連業界でも発生してきます。
モノ作りをしている企業やICT・ソフトウェア関連事業をする人は、Amazonが体力を奪ってくる状況を覚悟しておかなくてはいけません。
これが恐ろしさの正体です。
企業がとれるAmazon対策としては、以下2つの選択肢があるでしょう。
ある意味、Amazonが作る激流はチャンスなので、その流れをうまく活用するということですね。
例えばセドリと呼ばれるようなAmazonを利用した古書販売は、結構利益を出している人もいます。
注意点は、激流なので、変化が激しく、すぐに丸め込まれてしまう(利益が小さくなる)のを覚悟することですね。
先のセドリに関しても、最初に始めた人は儲かっていましたが、その情報が知れ渡るや否や、多くの出品者が集まり、利益を出すことが難しくなってしまいました。
これは、AWSのようなAmazonが作り出すITインフラサービスでも一緒です。誰にでもチャンスが拡がる代わりに、競争はより早く、激しくなります。
Amazonの流れの上で行われるのは基本的に合理化の流れです。つまり価格と物流の効率化競争なので、それに対応できないと、利益を出すことが難しくなります。
従って基本的には小さい企業など、低コスト体質の企業ほど有利な戦い方です。
また激流を活用する際には、「権利・資産」を活用するという考え方をすると良いでしょう。
権利や資産であればAmazonにも誰にも奪えないので、安心して流れに乗せることができます。
モノ作りで考えれば、著作権が発生し、かつファンやコレクターが喜ぶようなコンテンツや商品を作りたいですね。
例えばスタジオジブリの作品は、Amazonのみならず誰にも代替不可能で、どの時代であってもそこでしか手に入りませんし、コレクターの心もくすぐります。
ソフトウェア企業であれば、権利が発生するのは自社で保有するデータです。ですから、自社で抱えるデータを中心に何かサービスを作れないか考えていくことが求められるでしょう。
もしデータを保有していない企業は、今から何のデータをためるか考えていくと良いでしょう。(一般的には顧客データが一番良いです)
単なるサービス提供だけでは代替が可能なので、これからは権利や資産をどう作り、どのようにサービスと組み合わせていくか、がポイントになります。
人の経済活動を考えると、人は決して効率的なことだけを目指してはいません。
面白そうなものにも引き寄せられますし、そちらに流れもできます。
またAmazonが作り出せる流れにも限界があって、Amazonは大きな流れを作りますが、そのぶん細やかなサービスや人を惹き付けるサービスなどは苦手です。もちろんリアルで驚くような体験の提供も苦手。この両者は両立しないのです。
その点をついて、別の流れを作れたら、安心して利益を出すことができます。
わかりやすいところでいえば、星野リゾートがAmazonから脅威を受けることは今後もないでしょうし、近所のおいしいラーメン屋さんにとってもAmazonは脅威ではありません。
インターネット上でサービスを提供しているところも、フラッグシップ店舗を出したり、Amazonを使わなくても自社ECでこっそり利益が出るならば、なにもAmazonの激流に乗らなくても十分にやっていけます。
つまり、Amazonの流れに絶対に乗らないものを扱うという考え方が大切です。コモディティ化する商品ではなく、唯一無二のサービスを作るという考え方でいれば、間違えなくてすみます。
サービスによるファンコミュニティ作りがポイントです。
ソフトウェア提供企業も、このサービスとコミュニティの考え方を取り入れるようにすれば、Amazonの怖さに怯えなくてもすみます。
今回はAWSのイベントから垣間見えたAmazonの恐ろしさをとりあげましたが、よく考えてみると、この「合理化」という激流は、AmazonだけでなくGoogleなどインターネットの巨人たちが引き起こしていることです。
企業というよりは、インターネットの必然といってもいいかもしれません。
繋がりを作るインターネットは、いわゆるロングテール(べき乗分布)になりがちです。つまり少数の巨人と、大多数の小人にわかれるのですね。
そう考えると、だんだんインターネット業界の勝者が明確になってきて、AmazonやGoogleやFacebookがインフラ提供企業として大きな流れを作り出すことが確定した、というだけであり、もし彼らがいなかったとしても、いずれどこかの企業がそうなっていたでしょう。
インターネットは中間業者のチャンスを奪いますが、逆に小規模企業や個人にパワーを分散しますので、別の角度から見れば、個人レベルでは凄いチャンスが眠っています。
AmazonやGoogleが格安でサービスを提供してくれるので、例えば今回のイベントで発表になった法人向けAmazonエコーや、無料のIoT用OS、機械学習を楽に実行できるAWS SageMakerなどを使うと、小さな企業でも凄いサービスを作ることができますし、十分に食べていける可能性があります。
この激流を利用すればアイディア次第で小さいけど儲かるサービスをたくさん作ることができるでしょう。
これからの時代は中間業者にはつツラいですが、個人や小さな企業にとってはアイデア次第でたくさんのチャンスがある時代でもあるのです。
AWSのイベントでわかったのは、Amazonがインフラ企業として巨人になることが確定した、ということです。
その巨人と戦うのは大変なので、むしろ彼らが作り出す激流を意識したサービス展開を考えましょう。
すでに小さな企業でも人工知能を使うことも、カメラやスピーカーを使うことも、翻訳サービスを使うことも、そんなに難しいことではなくなってきています。
今まで高コストで小さい企業ではできなかったようなことが、どんどんできるようになっているのです。
彼らが出してくる新しいプロダクトに目を向け、激流対策を考えながら、ぜひ新しいアイディアを出せるようにしておきましょう。
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